第二部 第17話 ― 師の罪影 ―
ルナの涙の輝きが静かに収束すると、今度はファントムの前に結晶が浮かび上がった。
青白い光は彼を拒むでもなく、試すでもなく、ただ「真実を映す鏡」として待っていた。
ファントムは一歩、ためらいながらも近づく。
アルトが試練を超えた姿を見届けた直後だからこそ、自分も逃げるわけにはいかない。
結晶に指先が触れた瞬間――。
世界は一変した。
そこは燃えさかる大聖堂。
崩れ落ちる天井、叫び声、血の匂い。
炎の中で、若き日のファントムはただ立ち尽くしていた。
「……俺が……あの時……」
幻影の中で、彼は剣を構えている。
だが振り下ろした刃の先には、無辜の民がいた。
敵を欺くための“偽装”のはずが、結果として多くの犠牲を生んだ。
「違う……あれは必要な犠牲だった……そう、俺は……」
声が震える。
背後から現れるのは、彼がかつて信じ、そして裏切った仲間たち。
その顔は煤で汚れ、血に濡れ、問いただすように口を開いた。
『お前は守ると誓ったはずだ……』
『なぜ救わなかった……?』
ファントムは目を覆った。
あの夜、彼は任務と忠誠を選び、人としての誓いを裏切ったのだ。
それがずっと心を蝕み続けてきた。
――だが。
「……俺は怪盗だ」
静かな声が、炎の中に響いた。
ファントムは手を下ろし、幻影の仲間たちを見据える。
「俺は何も守れなかった。奪うことしかできなかった。
だが――その罪さえも盗み取り、背負って生きる。それが俺の道だ。」
その瞬間、炎が霧のように消え去り、幻影は跡形もなく崩れた。
代わりに結晶から柔らかな光があふれ、ファントムの胸を包み込む。
現実へと戻ったとき、彼の瞳はわずかに赤く濡れていた。
だがその表情は、初めて穏やかだった。
セリウスが低く呟く。
「……二人とも、自らの影を超えたか。ならば――次は最後だ。」
回廊の奥、漆黒の虚空が口を開く。
そこには「契約」の真実が待ち受けていた。




