55.第二部 第5話 ― 記憶の登楼 ―
階段を降りた先に広がっていたのは、途方もない空間だった。
石造りのはずの遺跡が、まるで夜空そのものに溶け込んだかのように変貌していた。壁も天井もなく、無限の星々と光の帯が漂っている。だが床だけは確かに存在し、三人を導く一本の道となって続いていた。
「……これが“記録の回廊”?」
セシリアが呟く。その声は空間に溶け、星々の瞬きに反響する。
やがて、道の両脇に浮かぶ水晶柱のようなものが現れた。
一つ一つの柱には、映像が揺らめいている。戦場、都市、空を飛ぶ巨大な船……そして人ならざる者たちの姿。
「これ、過去の記録……?」
アルトが目を凝らすと、ある柱には古代の王たちが異形の存在と契約を交わす場面が映し出されていた。
その瞬間、声が空間全体に響いた。
——我らは星の彼方より来たり。
——力を授け、均衡を守るために契約を結んだ。
光の中に浮かぶ“異星の者”は、人間に似ていながらも背に光の羽を持ち、瞳には星の輝きを宿していた。
ファントムが低く息を吐く。
「これが……人類と異星の契約の証。」
さらに奥へ進むと、ひときわ大きな水晶柱が立っていた。
その中に輝いていたのは――青き宝石、“ルナの涙”だった。
「ここにあったのか……!」アルトは息を呑む。
だが同時に、別の声が重なった。
——選ばれし者よ。お前は問われる。
「また……試練か。」アルトは結晶を強く握り、前へ進む。
柱の映像が変わり、そこに映し出されたのは――崩壊する都市、人々の絶望、そして無数の影に飲み込まれる地球の姿だった。
セシリアが震える声で言う。
「……これは未来? それとも過去の失敗……?」
すると、ファントムが険しい表情で柱を見据えた。
「いいや、これは“選択の未来”だ。ルナの涙の力をどう扱うかで、世界は救われるか、滅びるか。」
アルトは拳を握りしめる。
「なら、俺が選ぶ。力に飲まれず……未来を盗んでみせる。」
その瞬間、柱のルナの涙が激しく共鳴し、回廊全体が振動を始めた。
星々が渦を巻き、一つの“扉”が現れる。
その扉の奥から、冷ややかな気配が流れ込んできた。
「来るぞ……」ファントムが声を低める。
扉の向こうから現れたのは、かつてアルトたちを追った“黒い影”だった。
だが今回はただの幻ではない。実体を持ち、明確な敵意を宿していた。
「これが……“均衡を崩す者”……?」
セシリアが震える。
アルトは一歩前に出て、声を放った。
「なら、答えを見せてやる。俺は“未来”を盗みに来たんだ!」
——そして、記録の回廊での決戦が幕を開ける。




