53.第二部 第3話 ― 眠れる都市の門 ―
長い航海の果て、ついに海霧を抜けた船は、大陸の海岸へとたどり着いた。
そこに広がるのは、砂に埋もれかけた石造りの都市。廃墟と化してなお、荘厳な雰囲気を放っていた。
「……これが、“眠れる都市”か。」
アルトは船を降り、砂を踏みしめながら呟いた。
セシリアは風に髪をなびかせ、目を細める。
「人の気配はない。でも、見られてる感じがするわ。」
ファントムは一歩も遅れず、静かに都市の奥へと足を向けた。
都市は不思議な静寂に包まれていた。風も、鳥の声もない。
ただ、石壁に刻まれた古代文字が淡く光り、まるで訪れた者を導くかのように通路を照らしていた。
やがて一行は、巨大な門へとたどり着く。
門の中央には、ルナの涙と同じ紋様が刻まれている。
アルトの胸元の結晶が共鳴し、青白い光を放った。
「……開けろと言ってるようね。」
セシリアの声に、アルトは頷き、結晶を門にかざす。
轟音と共に、石門がゆっくりと開いていく。
中から吹き出したのは冷たい風……ではなく、囁きのような声だった。
——ようこそ、選ばれし者たちよ。
——契約の記録を継ぐ覚悟はあるか。
アルトは思わず息を呑む。
「今の……声が聞こえたか?」
「ええ。……都市そのものが、私たちに語りかけてる。」
セシリアが蒼ざめた顔で答えた。
門の向こうには、階段が下へと続いている。
そこは都市の中心部に眠る“記録の回廊”だと直感した。
だが、ファントムは門を見つめたまま、低く呟く。
「……気をつけろ。俺たちを試しているだけじゃない。」
「どういう意味だ?」アルトが振り返る。
「この都市には“守護者”がいる。古代の契約を破ろうとする者を滅ぼすために。」
その言葉の直後、石畳が震えた。
門の影から、黒い甲冑をまとった巨人の姿が現れる。
頭部には顔がなく、胸部には赤黒い結晶が脈動していた。
「……試練ってやつか。」
アルトが短く呟くと同時に、巨人の咆哮が都市全体に響き渡った。
——眠れる都市の門は、侵入者を拒むように閉じかけていた。




