49.世界を繋ぐもの― 第2話盗んだもの
神殿を覆う影が、一斉に牙を剥いた。
黒き靄は形を持ち、獣や剣、鎖のように変貌し、アルトたちに襲いかかる。
「セシリア、下がって!」
アルトはオブシディアンを振るい、迫りくる影を切り裂いた。青紫の閃光が走り、闇を一瞬押し返す。
ファントムは鋭い動きで影を翻弄しながら、ヴェイルに視線を投げた。
「影は無尽蔵……本体を断たねば終わらん。」
「わかってる!」
アルトも応じるが、その声にヴェイルが笑った。
「無駄だ。私は“答え”。存在そのものが、お前の中に刻まれている。
私を切り捨てることは、自らの選択を否定することだ。」
その言葉に、アルトの胸が一瞬重くなる。
だがセシリアの声が響いた。
「アルト! お前は一人じゃない! 問いも答えも、みんなで背負えばいい!」
彼女の魔力が輝き、青白い光の結界が展開される。影の群れがその光に焼かれ、霧散していった。
「……そうか。」
アルトは一歩、ヴェイルに踏み出した。
「お前は俺の中の“答え”だろ? なら、俺が盗んで書き換えてやる!」
オブシディアンが激しく光り、ルナの涙と共鳴した。
青と紫の光が絡み合い、剣のような形を取る。
「未来は——盗むんじゃない! 紡ぐんだッ!」
その瞬間、アルトは影を突き抜け、ヴェイルの胸元へと斬り込んだ。
黒い仮面が砕け、無数の光の粒子が空に散っていく。
ヴェイルは静かに笑った。
「……なるほど。
“答え”とは、ひとつに収束するものではなく——共に紡ぎ続けるものか。」
その声は淡く消え、影もまた霧のように溶けていった。
残された静寂の中、アルトは剣を握ったまま、深く息を吐いた。
ファントムが肩を叩き、セシリアが微笑む。
「終わった……のか?」
アルトの問いに、ファントムは首を横に振る。
「いや、まだ始まったばかりだ。問いも答えも奪い取った以上、お前たちは——次の未来を見せねばならん。」
その言葉に、アルトは夜明けの空を見上げた。
光は静かに差し込み、神殿の瓦礫を金色に照らし始める。
「なら……俺はその未来を、必ず盗んでみせる。」
彼の決意の言葉が、新しい一日の始まりに溶けていった。




