46.作られた均衡― 第2話復讐心
地下神殿の奥深く──蒼い輝きに包まれた「ルナの涙」は、まるで脈打つ心臓のように光を放っていた。
アルトとファントムはその前に立ち、足を止める。
「……これが、すべての始まりにして終わりの石。」
ファントムの紫の瞳が、淡く揺らめく結晶を映す。冷徹さを隠していた表情から、一瞬だけ少女のような素顔が覗いた。
結晶に近づくと、淡い音が響いた。
──低く、しかし澄んだ音。
それは言葉ではなく、記憶そのものだった。
次の瞬間、二人の意識は光に包まれ、目の前の光景が変わる。
荒れ果てた大地。崩壊した空。
そして、星々の間で交わされる「契約」の幻影。
人と異星の者が向かい合い、互いの存在を証明するように手を差し出す。
──『この石を継ぐ者よ。選ばれし意志を持つ者にのみ、未来を託す。』
声は、遥か遠い時を越えた。
アルトは胸を押さえる。結晶から流れ込む光が、彼の心の奥に触れていた。
過去の裏切り、復讐心、孤独。
だがそれらすべてが、光の中で剥がれ落ちていく。
「アルト……」
ファントムが小さく呟く。彼女もまた、結晶の共鳴に引き込まれていた。幼い頃に失ったもの、崩壊した家族。冷徹であるしかなかった自分。
だが今、その奥にまだ温もりが残っていることを知る。
二人の心が光に重なったとき、ルナの涙はさらに強く輝いた。
だが同時に、暗い影が神殿に差す。
──黒い影。
長きにわたりルナの涙を狙い続けてきた者たちが、ついに姿を現したのだ。
「ここからが本当の選択よ、アルト。」
ファントムが短剣を構え、冷たい微笑を浮かべる。
「逃げる道はない。俺たちが決めるんだ──未来を。」
アルトもまた、影へと視線を向けた。
ルナの涙の光が二人を包み、運命は最終の局面へと進もうとしていた。




