45.作られた均衡― 第1話拒絶
轟音と共に、結晶宮殿を包む光が弾けた。
アルトの声が核へと響き渡る。
「俺は……どの未来も選ばない!
問いも答えも、お前たちに渡しはしない!
俺が盗んで、未来に隠す!」
その瞬間、核の表面が裂け、内から奔流のような光が溢れ出した。
黒い影が咆哮をあげる。
《何も選ばぬだと……!それは“拒絶”だ! 均衡を壊す行為だ!》
「違う!」
アルトは声を張り上げる。
「均衡なんて、最初から誰かに作らされた幻だ!
俺が盗むのは……みんなの“可能性”だ!」
手に握ったルナの涙が蒼く輝き、彼の心に呼応する。
その光が未来の断片を絡め取り、核の中から引き抜いていく。
セシリアが驚きの声を上げた。
「……未来そのものを盗んでる……!」
ファントムはわずかに笑い、低く呟いた。
「さすがだ……怪盗アルト。」
黒い影は暴れ狂い、宮殿を崩壊させようとする。
しかしルナの涙が織りなす光の糸が、それを束ねて封じ込めていった。
《まだ終わらぬ……!我らは問いそのもの……人が存在する限り無限に現れる!》
「なら何度でも盗んでやるさ!」
アルトの声が宮殿を満たし、黒い影は悲鳴を残して霧散した。
静寂。
崩壊しかけた結晶宮殿の中心に、青い光の粒子だけが漂っていた。
セシリアが膝をつき、深く息をつく。
「……終わった……の?」
ファントムは答えず、アルトをじっと見つめていた。
その瞳はどこか誇らしげで、どこか寂しげだった。
アルトは短剣を収め、淡く輝くルナの涙を見つめながら言った。
「未来は、俺が盗んだ。……でも、隠し場所はまだ決めちゃいない。」
その言葉は、確かな決意と同時に新たな旅の始まりを告げるものだった。
結晶宮殿の鐘が、最後に一度だけ鳴り響く。
その音は、宇宙の果てにまで届くように澄み切っていた。
——怪盗アルトは、“未来”さえも盗んだ。
そしてその先に待つのは、まだ見ぬ新たな問い。




