表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の盗賊(シャドウ・シーフ)  作者: A-LIGHT(I lie)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

402/447

第261話:終われない依頼


 終わらない世界。


 それは、静かに壊れていた。


 ――誰にも気づかれないまま。


 朝は来る。

 夜も来る。


 だが、それらは“区切り”ではない。


 ただ、流れているだけだ。


 終わらないからこそ、続いているだけの時間。


 その中で――


「……ねえ」


 ファントムが、ふと足を止めた。


 細い路地の中、空を見上げる。


 薄く曇った空は、どこか現実味を欠いている。


「この世界、変じゃない?」


 隣を歩いていたアルトが、肩をすくめる。


「今さらだな」


 軽い口調。だが、その目はわずかに細められていた。


「でも、まあ……確かに」


 二人は、同時に周囲へ視線を巡らせる。


 違和感は、あちこちに転がっていた。


 同じ会話を、三度繰り返している男。

 閉じようとして、閉じられない店のシャッター。

 鳴り続けるスマートフォン。

 切るという行為が、“成立していない”。


 終わらない。


 それは、希望ではない。


 ただの停滞だ。


「……副作用ね」


 ファントムが小さく呟く。


「“終わらない世界”の」


 アルトは鼻で笑った。


「便利だと思ったんだけどな」


「ええ、私もよ」


 一拍。


「でも、“区切りがない”っていうのは――」


 言葉を選ぶように、ゆっくりと続ける。


「思ってたより、致命的」


 その時だった。


「……終わらせてほしいんです」


 背後から、声がした。


 二人は同時に振り返る。


 そこに立っていたのは、一人の男だった。


 年齢は三十代後半ほど。

 スーツはよれており、目の下には濃い隈。


 だが、その目だけは――異様に強かった。


 必死だった。


「……何を?」


 アルトが問いかける。


 男は、一瞬だけ躊躇い――それでも言った。


「この世界を」


 沈黙が落ちる。


 路地の空気が、わずかに重くなる。


「……は?」


 ファントムの眉が、わずかに動いた。


 だが男は、構わず続ける。


「終わらないんです」


 その声は、震えていた。


「何もかも」


「仕事も、会話も、人生も」


 拳を握りしめる。


「失敗しても終わらない」


「成功しても終わらない」


 一拍。


 その言葉は、ひどく静かだった。


「死のうとしても――終われない」


 空気が、凍る。


 アルトの表情から、軽さが消えた。


 ファントムもまた、真剣な眼差しで男を見つめている。


「……なるほど」


 ファントムが呟く。


「“終わらない”っていうのは、そういうことね」


 区切りがないということは、


 終着点がないということは、


 “逃げ場がない”ということだ。


 アルトが、一歩前に出る。


「つまり――」


 わずかに口角を上げる。


「“終わり”を盗めってことか?」


 男は、ゆっくりと頷いた。


 その目には、救いを求める色があった。


 だが同時に――


 どこか諦めたような色も混じっている。


「……できるんですか」


 小さな声。


 アルトは、少しだけ考える。


 そして――笑った。


「さあな」


 一拍。


「でも、やるしかねえだろ」


 ファントムが肩をすくめる。


「依頼されたんだもの」


 その目は、すでに鋭くなっていた。


「“終わり”を盗む」


 それは、


 かつての彼らなら考えもしなかった仕事。


 だが今は違う。


 彼らは、“結末”すら奪った存在だ。


「ただし」


 ファントムが続ける。


「簡単じゃないわよ」


「“終わり”は、ただの概念じゃない」


 一拍。


「世界の構造そのもの」


 アルトが頷く。


「つまり――」


「下手すりゃ、この世界ごと壊れる」


 男の顔が青ざめる。


 だが、それでも彼は言った。


「……それでもいい」


 迷いはなかった。


「このまま続くくらいなら」


 その言葉に、


 アルトとファントムは一瞬だけ目を合わせる。


 そして――


 同時に笑った。


「いい依頼だ」


 アルトが言う。


「ええ」


 ファントムも頷く。


「面白くなりそう」


 その瞬間。


 空気が、わずかに歪んだ。


 “終わり”という言葉に反応するように。


 見えない何かが、動く。


 この世界には――


 すでに“終わりを許さない何か”が存在している。


 それに気づいたのは、


 二人だけだった。


「……来るわね」


 ファントムが低く言う。


「ああ」


 アルトが、ゆっくりと構える。


「盗みに行く前に――」


 一拍。


「まずは、守ってるやつを剥がすか」


 路地の奥。


 影が、ゆっくりと動き出す。


 それは人ではない。


 概念でもない。


 だが確実に、


 “終わらない”という状態を維持する存在。


 そして――


 それは、彼らを認識した。


 終わりを求める者。


 終わりを奪う者。


 その両方を。


 世界が、きしむ。


 物語が、再び動き出す。


 今度の標的は――


 “終わりそのもの”。


---


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ