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影の盗賊(シャドウ・シーフ)  作者: A-LIGHT(I lie)


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第253話:選べない選択

 白。

 何もない。


 本当に、何もない。


 音もない。

 風もない。


 重力すら、曖昧。


 ただ、目の前に――

 一枚の“ページ”。


 アルトは、それを見下ろす。

「……何もなさすぎだろ」


 ファントムは静かに言う。

「当然よ」


「既存の要素は禁止」

 一拍。

第三の道。

 だが、その代償は――

 “存在の不安定化”。

 自分たちが、

 “どちらにも属さない存在”になる。

 つまり――

 “消える可能性”と隣り合わせ。

 それでも。

 物語は、進む。

「つまり、“思いついた瞬間に既存になる”」

 アルトが眉をひそめる。

「それ、詰んでないか?」


「ええ、普通はね」

 沈黙。

 だが、二人は動かない。

 焦りも、ない。


 ただ――考える。

◆思考の壁

「……人間、はダメ」


 ファントムが呟く。


「言葉も危ないわね」

「概念も、ほぼ既存だ」

 アルトが続ける。

「世界観を作る時点でアウトか」

「そういうこと」

 沈黙。

 これは、“創作”ではない。

 “定義の否定”だ。


 既にあるものを避けるほど、

 何も作れなくなる。


 ――だが。

◆アルトの一言

「じゃあさ」


 軽く言う。

「“まだ存在してないもの”を先に決めればいい」

 ファントムが顔を上げる。

「……どういうこと?」

「順番の問題だ」

 一歩、ページに近づく。

「普通は、“何かを作ってから存在させる”」

「でも逆なら?」

 一拍。

「“存在することを決めてから、中身を考える”」

 沈黙。

 ファントムの思考が、一気に回る。

◆理解

「……なるほど」


「“未定義の存在”を先に置く」

「そう」

 アルトは笑う。

「名前も、形も、意味もない」

「ただ、“ある”だけの何か」

 ファントムの口元が、わずかに上がる。

「それなら、“既存じゃない”」

◆最初の一行

 ゆづきはいない。


 ペンも、存在しない。


 だが――

 “書く”という行為は、できる。

 ファントムが、静かに手をかざす。

 ページに、波紋が広がる。

 そして――

 最初の“定義”。

 《ここに、未定義の存在がある》

 その瞬間。

 白の中に、“歪み”が生まれる。

 形はない。

 色もない。


 だが確実に、

 “何かがいる”。


◆異変

 空間が、わずかに震える。


 遠くで、“誰か”が反応した。

 ――観測者ではない。

 もっと、近い。

◆監視側の違和感

「……今の」


 ファントムが呟く。

「反応したわね」

 アルトが笑う。

「そりゃするだろ」

「“何もない場所に何か作った”んだから」

◆拡張

 ファントムが続ける。


「次は、“関係性”」

 一拍。

「単体じゃ、物語にならない」

 アルトが頷く。

「じゃあ」

 ページに、触れる。

 《それは、自分以外の何かを認識する》

 瞬間。

 “未定義の存在”が、揺れる。

 何かを探すように。

 だが――

 “何もない”。

 その矛盾が、空間を軋ませる。

◆負荷

 外側。


 “整える側”の男が、わずかに目を細める。


「……これは」

 初めての違和感。

 完全なゼロからの生成。

 しかも――

 “矛盾を内包している”。


◆戻る

 白の中。


 ファントムが、低く言う。

「いい感じに“壊れてる”」

 アルトが笑う。

「物語としては最低だな」

「ええ」

 一拍。

「でも、それがいい」

◆核心

 ファントムの目が、鋭くなる。


「“整えられない物語”を作る」

 アルトが頷く。

「編集できないやつか」

「そう」

◆加速

 ページに、さらに書き足す。


 《それは、理解しようとするほど定義が変わる》

 《それは、観測されると別の存在になる》

 《それは、結末を持たない》

 世界が、歪む。

 未定義の存在が、

 形になりかけては崩れる。


 意味が、安定しない。

◆限界への圧

 外側。


 男の手が、わずかに止まる。

「……まずいな」

 初めての、本音。

「これは、“整えられない”」

◆戻る

 アルトが、最後の一文を加える。


 《この物語は、完結しないことが完成である》

 瞬間。

 世界が、静止する。

 確定ではない。

 “確定できない状態で固定された”。

◆結果

 白が、戻る。


 だが――

 ページには、確かに“何か”が残っている。

◆外側

 男が、ゆっくりと息を吐く。


「……合格だ」

 その一言で、

 空気が変わる。


◆評価

「完全ではない」


「だが、“自立した物語”として成立している」

 一拍。

「しかも――」

 わずかに笑う。

「“触れづらい”」

◆権限

 紙が、光る。


 新しい文字が浮かぶ。

 《権限:一部譲渡》


 アルトとファントムは、


 ついに“書く側”へ踏み込む。


 だが――

 それは同時に、

 “責任を持つ側”になることを意味する。


 そして、

 “本当の作者”が、

 ついに動き出す。


「……遊びはここまでだ」

 ページが、燃えるように変わる。

 新たな舞台。

 新たな強制。


 そして――

 “選べない選択”。

――続く。

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