第202話 **善意の代償**
◆**介入者の夜**
雨の夜。
交差点の街灯の下で、男は立っていた。
「……ここだな」
見えている。
トラック。
スリップ。
横断中の女性。
――死亡率、高。
男は迷わない。
指先で、未来に触れる。
「助ける」
それだけ。
◆**書き換え**
女性は、くしゃみをした。
一瞬だけ歩みが遅れ、
事故は起きなかった。
トラックは信号を越え、
何事もなく走り去る。
「よし」
男は満足した。
**未来は救われた。**
――彼は、そう思った。
◆**残された線**
だが。
救われなかった未来が、
消えずに残っていた。
女性は、家に帰る。
テレビをつける。
ニュース。
> 「深夜、高速道路で多重事故。
> 原因は、ブレーキ不良とみられ――」
影像の中で、
別の車が、潰れている。
男の未来視が、遅れて追いつく。
「……あ?」
◆**連鎖**
トラックは、別の場所で事故を起こしていた。
彼が触れた結果、
**重なっていた因果が、押し出された**。
救った未来の重さが、
どこかへ落ちた。
◆**観測不能**
その瞬間。
ゆづきは、息を詰まらせた。
「……来た」
「ええ」
ファントムも、画面から目を離さない。
「因果が、“逃げた”」
◆**歪みの具現化**
事故現場。
本来、そこにいないはずの人物が倒れている。
名前も、関係も、
誰とも繋がっていない“穴”。
「……どうして、俺が……」
青年は、意識を失う。
世界は、説明できない犠牲を生んだ。
◆**気づき始める男**
男は、頭を抱える。
「救ったはずだ……」
未来を見る。
だが、ノイズが混じる。
救えた未来の先に、
**自分が見えない。**
◆**語り手の限界**
「……見えない?」
初めて、恐怖が滲む。
管理したはずの未来が、
自分の手を離れている。
◆**対峙**
翌日。
ゆづきは、男の前に立った。
「もう、起きてる」
「……何がだ」
「**あなたが救った未来の、反動**」
男は、視線を逸らさない。
「助けた。それだけだ」
「いいえ」
ゆづきは、静かに言う。
「**選んだ**の」
◆**崩れ始める正義**
ファントムが、一歩前に出る。
「救えた数字だけ見て、
落ちたものを数えてない」
「……だから何だ」
男の声が、荒れる。
「見殺しにしろって言うのか」
◆**橋として**
「違う」
ゆづきは、首を横に振る。
「**一緒に引き受ける**って言ってるの」
一拍。
「あなた一人じゃ、もう無理」
◆**拒絶**
男は、笑った。
「……弱いな」
だが、その笑いは震えていた。
「俺は、止まらない」
背を向ける。
「止まれば、
今まで救った全部が、意味を失う」
◆**背中**
去っていく背中。
ゆづきは、追わない。
ただ、言った。
「……壊れる前に、戻ってきて」
◆**記録される歪み**
夜。
代理人は、報告を見る。
「因果反動、顕在化」
ため息。
「やはりな」
だが――
補正命令は、出さなかった。
◆**次の地平**
ファントムが、低く言う。
「このままじゃ、
彼は“救世主”になる」
「ええ」
ゆづきは頷く。
「そして――
**一番危険な存在に**」
雨は止まない。
善意は、武器になる。




