第200話 名もなき語り手
◆**違和感の連鎖**
最初の報告は、深夜だった。
「娘が、事故に遭うはずだった道を歩かなかった」
「理由は? と聞いたら、“なんとなく”って」
次は、地方都市。
「出張をキャンセルしたら、
その列車が翌日ニュースになった」
共通点は一つ。
**誰も、助けられたとは思っていない。**
◆**増殖する“感覚”**
ファントムは、画面を切り替えながら言った。
「これはもう、偶発じゃない」
「私じゃない」
ゆづきは即答した。
「私は、触ってない」
「分かってる」
ファントムの声が、わずかに低くなる。
「……他にも“触れる人間”が出てきてる」
◆**無自覚な語り手**
高校の屋上。
一人の少女が、風に髪を揺らしていた。
「……やめよ」
それだけ呟いて、フェンスから離れる。
理由は説明できない。
ただ――
**未来が、嫌がった。**
彼女の胸元で、
淡い光が、一瞬だけ灯る。
◆**共鳴**
その瞬間。
ゆづきは、立ち止まった。
「……今」
「ええ」
ファントムも感じていた。
「同じ種類の“脈”」
強さは、弱い。
精度は、粗い。
だが――方向が、同じだ。
◆**代理人の警告**
夜。
久しぶりに、彼は現れた。
「これは想定外だ」
開口一番。
「語り手は、増殖する存在ではない」
「でも、した」
ゆづきは静かに言う。
「……君が“独占しなかった”からだ」
代理人の視線が、鋭くなる。
「力は、必ず偏在する」
「だから?」
「奪い合いが始まる」
◆**最初の衝突**
その予言は、早かった。
翌日。
二つの地域で、**同じ人物の未来が、同時に修正された**。
片方では、助かる。
片方では、失う。
世界が、**矛盾を抱えたまま進行**する。
「……干渉同士が、喧嘩してる」
ミナトが呟く。
「ええ」
ファントムは、拳を握った。
「これはもう、“選択”の問題じゃない」
◆**語り手同士**
「……会わなきゃ」
「誰に?」
ミナトの問いに、ゆづきは答える。
「**新しく生まれた語り手たちに**」
一拍。
「独占もしない。
支配もしない」
目を上げる。
「でも――
**衝突だけは、放置できない**」
◆**世界の反応**
空に、薄いノイズが走る。
観測可能なレベルで。
代理人が、小さく笑った。
「なるほど」
声に、感情が混じる。
「これはもはや、管理対象じゃない」
一瞬、沈黙。
「……社会現象だ」
◆**新しい問い**
夜。
ゆづきは、窓辺に立つ。
「ねえ、ファントム」
「なに?」
「語り手が増えたら、私は――
何になるんだろう」
ファントムは、即答しなかった。
そして。
「……**橋**じゃない?」
微笑む。
「未来と人のね」
◆**次章への兆し**
どこかで、誰かが選ぶ。
別の誰かが、触れてしまう。
語り手は、もう一人じゃない。
だからこそ――
物語は、難しくなる。




