33.もう一人の影~1.断罪の一撃.~
崩れた鉄骨の間を、冷たい風が吹き抜ける。
舞い上がった粉塵の中、三人の影が互いを睨み合っていた。
セシリア「……来なさい。口先だけじゃ、何も変えられないわ」
その言葉と同時に、義手の銃口が回転し、光弾が連射される。
鉄板を赤と白の閃光が高架下を貫き、鉄板を焼き裂く。
ファントムはその一歩手前で身を翻し、影のように弾道をかわした。
地面を蹴ると同時に、外套の裾から数枚の黒いカードが放たれる。
それらは宙で弧を描き、まるで意志を持つようにセシリアへ襲いかかる。
セシリアは義手を盾の形に変形させ、火花を散らしながら受け止めた。
だが、衝撃の中に混じる微かな“違和感”に眉をひそめる。
セシリア「……っ、これは——」
カードから染み出すような黒い靄が、義手の金属に絡みついていた。
それは物理的な損傷ではなく、精神を直接侵すような“影の干渉”だった。その刹那、アルトの胸元で《ルナの涙》が淡い光を放った。
彼の意志と結晶の鼓動が共鳴し、靄をかき消すように澄んだ青光が広がる。
ファントムの動きが一瞬止まった。
仮面の奥の瞳に、驚きと焦燥が混ざる。
ファントム「……やはり反応したか。《契約の証》はお前を選んだ」
アルト「選ばれた覚えはない。けど……お前に渡すつもりもない」
アルトは結晶を握りしめ、踏み込みと同時に影を裂くような斬撃を放った。
光の刃がファントムの外套を裂き、血の匂いが一瞬漂う。
だが、ファントムは倒れない。
外套の裂け目から覗いた胸元には、同じく宝石が輝いていた——深紅の《ルナの涙》。
それは青い結晶とは対照的な、熱と破壊の力を宿していた。
ファントム「……二つ揃えば、扉は完全に開く。だが、その先に待つのは救済じゃない」
アルト「だったら——選ぶのは俺たちだ!」
二つの結晶が光を放ち、空間が歪む。
地面のひび割れから光柱が立ち昇り、周囲の時間が緩やかに引き延ばされる。
セシリアは目を細め、その眩さの中で小さく呟いた。
セシリア「……ここで決着をつけるしかない」
空間はねじれ、地面が上下逆さまに捻じ曲がる。
高架の鉄骨は空へと流れ、街灯の灯りは水面のように波打っていた。
アルトの手の《ルナの涙》が脈動を強める。
対峙するファントムの胸元の紅い結晶も、それに呼応するかのように震えていた。
二つの結晶から放たれる光が交わる瞬間、空間はまるで巨大な心臓の鼓動に合わせて膨張と収縮を繰り返した。
ファントム「……青は秩序、紅は破壊。だが本質は同じ——契約の双子だ」
アルトは唇を噛む。
「契約の双子」——その言葉が意味するのは、二つが揃ったときのみ開かれる“扉”の存在。
突然、アルトの視界に流れ込む膨大な映像。
それは異星と人類が初めて出会った時代の光景だった。
無数の船団が空を覆い、海が赤く染まり、大地が裂けていく。
中央には、青と紅の結晶を両手に掲げる一人の人物——
アルト(……これ、俺じゃない……誰だ?)
映像の人物は、アルトと瓜二つの顔をしていた。
だが、その瞳は今のアルトよりもはるかに冷たく、重い決意を帯びていた。
光が弾け、アルトは現実へ引き戻される。
紅の結晶を掲げたファントムが、一気に間合いを詰めてきた。
ファントム「選べ、アルト。扉を開けるか、すべてを砕くか」
アルト「選択肢は一つじゃない……俺は——盗む!」
青い結晶が強く輝き、ファントムの紅い光を押し返す。
二つの光がぶつかり合い、衝撃波が周囲の構造物を粉砕していった。
その光の奔流の中で、セシリアは必死に踏みとどまりながら叫ぶ。
セシリア「二人とも——その先に何があるのか、見極めなきゃ!」
だが、空間の亀裂は急速に広がり、闇の裂け目が三人を飲み込もうとしていた。




