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影の盗賊(シャドウ・シーフ)  作者: A-LIGHT(I lie)


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第179話 影の囁き

◆夜の訪れ

 その日の夜。

 ゆづきは部屋の電気を消し、布団に横になっていた。

 窓の外には、満月の“欠けた姿”が浮かんでいる。

 次の満月まで、あと二週間。

「……私、本当に選べるのかな」

 胸の奥の“語り手の光”は、まだわずかに疼いている。

 影を吸収した代償――未来の重み。

 まぶたを閉じようとしたそのとき。

 ――カサッ。

 部屋の隅で、影が揺れた。

 風は吹いていない。

 カーテンも閉まっているのに。

「……?」

 ゆづきが上半身を起こし、そちらを見つめた瞬間。

◆影の声

『……ゆづき』

 聞こえた。

 間違いなく、自分の声で。

 しかし、今布団にいる自分ではない。

 影が、ゆっくりと姿を浮かび上がらせた。

 輪郭は揺れているが――

 そこにいるのは、“自分と同じ背丈、同じ髪、同じ瞳”。

『……やっと話せた』

「あなた……私の、影?」

 影は微笑んだ。

 闇のはずなのに、哀しみと温かさが同時に滲む表情だった。

『そう。あなたが取り込んだ“未来の私”。

 本当なら消えるはずだった存在』

「消したくなかったよ。

 だってあなたは……私だったから」

『うん。嬉しかった。

 でも……ね、ゆづき。』

 影の声が震える。

『私、これ以上あなたの中にいると――

 あなたの未来を“侵食”しちゃう』

 ゆづきは息を飲んだ。

「侵食……?」

『あなたは“未来を選ぶ権利”を持ってる。

 でも私は――

 自分が歩けなかった未来に、まだ未練がある』

 影は胸を押さえた。

 見えない痛みに耐えるように。

『だから、あなたが迷うほど……

 私は強く、外に出たくなるの』

「……!」

 未来勢力が言っていたことがよぎる。

――“未来が倍化し続ける”。

 影は、未来を二つに引き裂こうとしている……?

 悪意はなく、ただ“存在したい”だけで。

◆影の問い

『ゆづき……ねぇ……』

 影が一歩近づく。

『“あの日の私の未来”も……

 生きていいと思う……?』

「…………」

 返事ができなかった。

 影の未来は、孤独で痛みを抱えた未来。

 だけど――それでも“否定できない命”だった。

『ねぇ……選べないよね……?

 私も……消えたくなんか……ないよ……』

 影が涙をこぼすように揺れた。

◆ファントムの介入

 その時――

「ゆづき、入るわよ」

 ノックの音と同時に、ファントムがそっと扉を開けた。

 ゆづきの顔、そして部屋の“異常”を一瞬で察する。

「……やっぱり現れたのね」

 ファントムの視線は鋭く、影をまっすぐ射抜いていた。

『……あなた、邪魔しないで。

 私はゆづきの一部なの』

「一部だからこそ危険なのよ。

 あなたが“未来を二つに割ってしまう”可能性がある」

『でも……私には……未来がなかった……

 ゆづきだけが、生きられるなんて……』

「違うわ」

 ファントムはゆっくりと影に近づく。

「あなたも未来を持てる。

“ゆづきと同じ未来を歩む”という選択肢だって、本当はあるのよ」

『でももう……私は影で……』

「影でも、生きられるわ」

 ファントムの瞳が決意を帯びる。

「――ゆづきが、あなたを“未来の語り手”として選べば」

『!!』

 ゆづきは思わずファントムを見る。

「そんなこと……できるの?」

「語り手の核心を得たあなたなら可能よ。

 影を“自分の一部として統合”し、

 未来を一つの形にできる」

『……だったら……私は――』

◆ゆづきの心が揺れる

「ちょ、ちょっと待って!」

 ゆづきは思わず叫んだ。

「そんな簡単に決められない!

 だって……どっちの未来も大切で……

 どっちの“私”も……消したくなんて……!」

 言葉が震えて喉でつまる。

 影のゆづきは苦しそうに微笑んだ。

『……その優しさが……私を苦しめるの』

「……!」

『私はね、ゆづき。

 “あなたの未来を奪いたい”んじゃない。

 ただ――

 あなたの未来の中にいてもいいのか知りたいだけ』

 影の手が、そっと伸びてくる。

『ねぇ……私を、“未来に入れて”くれる?』

 ゆづきの胸が締めつけられた。

 選択の期限は、満月まで。

 でも、この問いは――

 誰も代わりに答えられない。

 ゆづきが唇を震わせた、その時。

◆影の異変

 部屋の空気がビリッ、と音を立てた。

 影の輪郭が崩れ――

 突然、苦しむように歪む。

『っ……あ……あああ……!!』

「ゆづき!影が――!」

「影のゆづき!?どうしたの!?」

 影は胸を抑え、黒い粒子をこぼしながら叫んだ。

『……“第三勢力”が……

 私を……呼んで……る……!!』

「呼んでる……!?」

『選択が進まない未来を……

 “排除”しようとしてる……!』

 その言葉を最後に、影の身体は弾けるように消えた。

 部屋には静寂だけが残された。

 

◆残された現実

 ゆづきは崩れ落ち、布団を抱きしめる。

「……影まで……苦しんでるの……?」

 ファントムはそっとゆづきを支える。

「影のゆづきは、あなたと同じ“願い”を持つ存在。

 だからこそ、第三勢力にとっては危険なの」

 ゆづきの涙がこぼれた。

「どうすれば……どうしたら、みんな救えるの……?」

 ファントムはそっと頬を拭う。

「全員を救いたいなら――

 あなた自身が、“未来の語り手”として答えを見つけるしかないわ」

 ゆづきは震える声で呟いた。

「……影の私を、助けたい」

「ええ。きっと助けられる」

 ファントムは優しい声で続けた。

「――二人で、必ず取り戻すわ」

 夜は深まり、窓の外では欠けた月が静かに光っていた。

 影は消えた。

 しかし、その存在は消滅していない。

 次に現れるとき――

 影はもう“同じ姿”ではないかもしれない。

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