第175話 未来の振動
ゆづきとファントムが歩き出して数分。
何気ない日常の空気を切り裂くように、世界の奥底で――ごく微かに“震動”が走った。
「……今の、感じた?」
ゆづきは足を止める。
「ええ。あれは揺らぎじゃない……“呼び声”よ」
ファントムの表情が鋭く変わる。
未来の小さな光の影が示していた変化が、より大きな形で姿を現し始めたのだ。
◆街の中心に現れた“歪み”
人々が行き交う広場の中心――
そこに、細い線のような裂け目が浮かび上がっていた。
青と金が絡まり、煙のようにゆらゆらと揺れる。
しかし今回は、小さな影が生まれる様子はない。
代わりに、裂け目の奥で“何か”が呼吸していた。
「……生きてるみたいだ」
ゆづきが囁く。
「ええ。未来そのものが、私たちに問いかけてる」
ファントムは裂け目に近づき、手の甲に展開する光の防壁を起動した。
その瞬間、裂け目がピクリと震える。
まるで “あなたたちの未来は本当にその選択で良いのか?”
そう言いたげに。
◆未来の声
耳ではなく、胸の奥に直接響く声が届く。
『語り手ユヅキ。
選択の波紋、第二段階へ。
“未決定領域”が拡張中――
観測を望むか? 否か?』
ゆづきは息を呑む。
「観測って、どういう……」
「未来があなたに、“見ろ”って言ってるのよ。
あなたが選んだ未来の先――その責任と可能性を」
ファントムはゆづきの手を取り、強く握った。
「でも、あなた一人に見せはしない。私も一緒よ」
◆未来の断片
裂け目の奥に、映像が滲み始める。
──どこか寂れた街
──色を失った空
──ゆづきによく似た少女が、たった一人で歩いている
──そして、背後に広がる“巨大な影”
「これ……誰?」
ゆづきの声が震える。
「……別軸の未来。あなたになれなかった“語り手候補”の一人ね」
裂け目の向こうの少女は、こちらを“見て”いた。
目が合った瞬間、ゆづきの胸が痛む。
まるで、見捨てられた未来が怒っているような痛み。
◆未来が開く扉
裂け目が大きく開いた。
青と金の光が吹き出し、広場の空気を震わせる。
『観測選択確認。
未来干渉イベント、発生準備完了。
語り手ユヅキ――
あなたは未来の影と向き合う覚悟を持つか?』
問いは、選択ではなく“覚悟”を問うものだった。
ゆづきは恐れながらも、ゆっくりと頷く。
「……うん。未来が求めてるなら……私も向き合うよ」
ファントムは一歩前に出る。
「だったら、私が先に行く。
あなたを守りながら、未来の影に問いかけるわ」
ゆづきの手を握り返しながら、ファントムは笑った。
「覚悟はできてる?」
ゆづきもまた、小さく息を吸って答えた。
「……うん。一緒に行こう。未来の向こうへ」
◆事件の幕開け
光が二人の足元を包み込む。
大きく開いた未来への裂け目が、二人を“試練の世界”へと招く。
これが――
未来からの本当の試練、最初の事件だった。
ゆづきの選んだ未来が、本当に正しいのか。
二人の願いは、世界と運命を超えていけるのか。
すべてが、この扉の先で決まる。




