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影の盗賊(シャドウ・シーフ)  作者: A-LIGHT(I lie)


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第160話 観測者殺しの目的と、“語り手の終わり”

弾き飛ばされた観測者殺し(アーカイブ・キラー)は、闇に擦れながら体勢を立て直した。


 黒い影の内側で光が脈打つ。

 それは怒りでも憎悪でもない。

 ただの、機能の再起動だった。


「……語り手の保護者シールドを確認。

 新たな対策を実行」


 影がゆっくりと形を変える。

 腕が四本に増え、刃のような光が指先から伸びた。


 ゆづきが息を呑む。


「……形が……違う……!」


「学習してるのよ」

 ファントムが短剣を構え直す。

「私の能力も、アルトの手も、全部見て、飲み込んで……」


 観測者殺しは低い声で告げた。


「削除対象:語り手ユヅキ。

 理由:物語の崩壊を引き起こす“限界値”に達したため。」


 ゆづきの瞳が大きく揺れた。


「……私……が原因で……世界が壊れる……?」


 ファントムは即座に否定しようとした。

 だが――影は冷徹に続ける。


「語り手は“物語の観測者”。

 ただし、観測が不安定化すると世界が耐えられなくなる。

 ユヅキ――あなたの“語り手寿命”は、残りわずか。」


 ゆづきの体が震える。


「語り手……寿命?」


◆世界の芯が語る“真実”


 その時。

 世界のコアの青い光が大きく脈動した。


 青い破片が舞い、空間全体に響く低い声が漏れる。


 ――語り手の安定度……低下。


 ――語り手ユヅキの観測限界……近い。


 ゆづきの胸の中心、語り手の核が明滅し、光が弱まっていく。


「そんな……! 私、まだ……終わりたく、ない……!」


 ファントムはゆづきの肩を支える。


「終わらせない。

 あなたは、この世界を紡ぐ“声”なんだから」


 ゆづきは涙をこらえるように唇を噛む。


「ファントム……このままじゃ、私……“消える”……?」


「語り手の終わり」は、死ではない。

 “存在の消滅”だ。

 物語から完全に消される――それが語り手の終期。


◆観測者殺しの目的


 観測者殺しが静かに告げた。


「語り手の消失は、世界を守る“正常な手続き”。

 あなたの恐怖、罪悪感、不安。

 それらは物語の整合性を乱し、世界の芯に負荷を与えている。」


 ゆづきは震えながら問う。


「じゃあ……あなたの使命は……」


「語り手の削除。

 そして“新しい語り手”の選定。」


 世界が凍りついたように静まり返る。


「新しい……語り手……!」


 ゆづきの声は震えていた。

 自分が“物語の語り手”に選ばれたのは偶然ではなく、

 ただ世界の都合のためだった――?


 観測者殺しは続けた。


「語り手は“世界の意志”で選ばれる。

 ユヅキ、お前の任務は既に終わりつつある。

 世界は“次”を求めている。」


 ファントムは一歩前に出た。


「ふざけるのもいい加減にしなさい。

 語り手が“取り替え可能な部品”だと言いたいの?」


「その通り。

 語り手は役割。

 人格は付随物。」


 世界がたわむ音がした。

 ゆづきは地面に崩れかけ、ファントムが支える。


◆アルトの最終改変


 その時、世界の芯に刻まれた深い青が、

 静かに――だが確かに変質した。


 アルトの残響が、二人の心に直接流れ込む。


 ――聞け、ファントム。

  そしてゆづき。


 ファントムの瞳が揺れる。


「アルト……!」


 アルトの声は静かだった。


 ――語り手は“消耗品”じゃない。

  世界はそう定義しているが……

  俺が最後に行った“改変”は、それを壊すためのものだ。


 ゆづきが驚愕する。


「改変……? 何を……?」


 アルトの声は、どこか優しくなった。


 ――“語り手を人として扱え”。

  “語り手に終わりを強制するな”。

  “語り手を守る役割を――ファントムに与えよ”。


 ファントムの心が熱を帯びる。


「……だから、私は盾に……!」


 アルトは静かに告げた。


 ――ファントム。

  おまえに“語り手の寿命を書き換える権限”を与えた。


 ゆづきは息を呑む。


「わたしの……寿命……?」


 そう。

 ファントムは今――ゆづきの語り手としての寿命を、延ばすことができる。


 ただし。


 ――この権限には“対価”がある。


 ファントムは静かに問う。


「……対価は?」


 アルトの残響は、優しい悲しみと共に答えた。


 ――ファントム。

  おまえが“語り手に近づく”。

  つまり――物語の外側に立てなくなる。


 ゆづきが叫ぶ。


「そんなの――だめ!!

 ファントムは、あなたは……!」


 ファントムはゆづきの手をそっと握った。


「……ゆづき。

 世界があなたを終わらせようとしても――私は許さない。」


 観測者殺しが再び構える。


「語り手の寿命延長を確認。

 それは世界の“逸脱”。

 削除対象に――ファントムも加える」


 空間が黒く裂ける。


 ファントムは一歩も引かず、青い光をまとう。


「来なさい。

 ゆづきにも、語り手にも、終わりなんて認めない」


 その背中は、世界でいちばん強かった。

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