表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の盗賊(シャドウ・シーフ)  作者: A-LIGHT(I lie)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/354

22. 虚空の花園 ― 第2話記憶の回廊

虚空の花の幻影の仕組みは、ただの香気ではなかった。オルゴールが音波を媒体にし、記憶を共鳴させる装置であることをアルトは見抜く。問題は、その装置の出所だった。


夜明け前、アルトはリリックという情報屋の協力を得て、財団イシュタルの地下にある美術アーカイブへと潜入する。そこには没収された美術品や、歴史から消された研究の記録が保管されていた。


「このアーカイブ、ただの保存庫じゃない。」


リリックが示したのは、記憶操作兵器の開発データだった。虚空の花とオルゴールは、その試作品にすぎない。


「やっぱりな。これは芸術の皮を被った兵器だ。」


その夜、アルトは再び〈ラ・ブランシュ〉と接触する。彼女の正体は、失踪した科学者・神代ミレイの姉。財団に潜入し、妹の消息を追っていた。


「妹は、あの花を作っていた。だけど…それは兵器として利用された。」


彼女の言葉に、アルトの決意は固まる。目的は、虚空の花の原種《始原の虚空》。それがあるのは、イシュタル財団が秘密裏に管理する「時計塔の温室」だった。

アルトと〈ラ・ブランシュ〉は、廃棄された地下鉄の線路跡を辿り、時計塔の地下区画へと向かった。リリックが提供した地図には、記されていない通路がいくつも存在していた。


「財団がここまで厳重に隠しているってことは──」

「始原の虚空は、ただの植物じゃないってことね。」


重く錆びた鉄扉の先、二人が辿り着いたのは、かつて科学者たちが出入りしていたという旧研究室跡だった。


そこには、粉々に砕かれた記録装置と、焼かれた資料の山。だが、唯一焼失を免れた一冊の記録ノートが、ひっそりと金属棚の隙間に残されていた。


アルトは手袋越しにページをめくる。

──実験記録 No.042:始原の虚空(Void Primula)


「虚空の花は、感情と記憶の共振反応を引き起こす。

発する香気に含まれる微細な振動子は、オルゴールの音波と共鳴し、対象の記憶を“選択的に再生・拡張”させる作用を持つ。」

「つまり……記憶を“見せる”だけじゃない。“記憶そのものを増幅し、植え付ける”ってわけか。」


〈ラ・ブランシュ〉が冷たく呟いた。


「財団は、人の“過去”を作り変える装置を造ってたのよ。あの子の研究を歪めて。」


アルトは記録の最後のページに指を滑らせた。そこには、手書きのメモが残されていた。


『原種は成長し続けている。温室の中央部、コード“Lucis Prima”。制御装置は未完成。急げ。』

「コードネーム……“光の始まり”? 皮肉だな。」


時計塔の地下で静かに芽吹く、《始原の虚空》。

それは、記憶を癒すために創られた花が、永遠に“偽り”と“真実”を巡る戦場へと変貌する鍵だった。


アルトは記録ノートを懐にしまい、〈ラ・ブランシュ〉と顔を見合わせた。


「準備はいいか?」

「ええ、もう迷わない。」


そして二人は、再び地上へ向かう階段を昇っていった。


その先にあるのは、時計塔の頂きに佇む“温室”──記憶の源泉。

そこには、かつて姉妹が描いた理想と、失われた未来が眠っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ