第53話「影を追う策」
路地裏に残された瓦礫の上で、アルトたちは短い沈黙を共有していた。
さきほどの戦闘で、刺客は決定的なダメージを負うことなく姿を消した。
だが、その目的が「欠片の奪取」であることは、もはや疑いようがなかった。
ヴェイルが拳を握り締め、低く唸る。
「ちくしょう……! あいつ、明らかに装置に欠片を吸い込む仕掛けを持ってやがった。下手に戦えば、逆に利用されるぞ」
セシリアは胸の前で手を組み、深呼吸する。
「でも、街を守るには逃げるわけにもいかない。放っておけば次はもっと大きな被害が出る……」
アルトは胸の欠片に触れた。淡く脈動する青光が、皮膚の下から心臓を叩くように伝わってくる。
痛みは、単なる痛覚ではなく――警告のようにも思えた。
「奴の背後には組織がある。カーディナルか……あるいは、それに並ぶ存在かもしれない」
アルトは低い声で言った。
その言葉に、ヴェイルが振り向く。
「カーディナル……。噂じゃ世界規模で動く犯罪組織だろ? もしそうなら、この街だけで済む話じゃねえな」
セシリアが小さく頷く。
「でも、相手が誰であれ――欠片を狙われるなら、こちらも備えを固めなきゃ」
三人はその場で簡単な作戦を練った。
セシリアは街全域に小規模な結界を張り巡らせ、異変を感知する仕組みを作る。
ヴェイルは裏通りや情報屋のルートを使って、刺客の正体を探る。
アルトは欠片の反応を制御する方法を模索し、暴走を防ぐ。
ヴェイルは口元をゆがめて笑った。
「いいじゃねえか。俺は得意分野だ。路地裏の連中は口が軽いからな」
セシリアは真剣な眼差しでアルトを見た。
「でも……アルトが一番危ないわ。欠片の力を抑えきれなかったら、敵に利用されるだけじゃなく……あなた自身が壊れてしまう」
アルトは小さく頷いた。
「わかってる。……だからこそ、制御法を見つける」
その時、風に揺れる音が聞こえた。
――路地裏の奥、瓦礫の隙間に、小さな紙片が残されていたのだ。
セシリアが拾い上げると、そこには古代文字でこう記されていた。
『次の狩場は、市場だ』
ヴェイルが低く笑った。
「……挑発か、それとも罠か」
アルトは剣の柄に手を添え、静かに呟いた。
「どちらでも構わない。必ず迎え撃つ」
三人の視線が交わり、次なる戦いの舞台が決まった。