第52話「路地裏の激突」
黒衣の刺客が足を踏み出した瞬間、路地裏の空気が重く沈んだ。
その手に握られた装置から、淡い黒光が漏れ出し、周囲の灯りが一つ、また一つと消えていく。
「光が……吸い込まれてる?」
セシリアが息を呑む。
ヴェイルが前に出て炎を灯すが、その炎さえも揺らぎ、まるで引き寄せられるように装置へ吸われていった。
「チッ……厄介な仕組みだな。炎すら餌食か」
刺客は冷笑を浮かべた。
「欠片の力は、この装置がもっとも効率よく取り込める。抵抗しても無駄だ」
アルトは剣を構え直し、仲間に声をかける。
「セシリアは結界で民間人を守ってくれ。ヴェイル、俺と一緒に前に出る」
「了解だ!」
「任せて!」
刺客が一気に間合いを詰め、黒光を帯びた短剣を振るう。
アルトは蒼炎の剣で受け止めるが、衝突の衝撃で膝が沈み込む。
「……重い……!」
ヴェイルが炎を纏った拳を突き出すが、炎は短剣に触れた瞬間、吸い込まれて霧散した。
「なっ……!」
『無駄だ。光も炎も、この闇には抗えん』
刺客の声は冷たく響き渡る。
セシリアは祈りを込め、透明な結界を街路に張り巡らせた。
「これで……市民は巻き込まれない。でも長くはもたないわ!」
アルトは歯を食いしばり、胸の欠片に意識を向ける。
痛みとともに青い光が剣に宿り、蒼炎が再び揺らめいた。
「……光を吸われるなら、その力ごと叩き返す!」
刺客が装置をかざした瞬間、アルトは低く構え――
「蒼炎斬ッ!」
青白い炎が弧を描き、装置の闇と激突した。
衝撃で路地の石畳が砕け、轟音が街中に響き渡る。
瓦礫と煙の中、刺客の姿が影のように揺らめいた。
しかし、その紅い瞳は消えていない。
「……なるほど。欠片の力……やはり噂以上だな」
刺客はわずかに後退し、静かに呟いた。
「だが、この街での遊戯はここまでだ。次は必ず奪う」
影が崩れ、闇とともに消え去った。
張り詰めていた空気が解け、セシリアが膝をついて安堵の息をついた。
「ふぅ……ひとまずは、守れた……」
ヴェイルは拳を握りしめ、苛立ちを隠せない。
「逃げられたか……。だが次は容赦しねえ」
アルトは胸の欠片に触れ、じんじんと残る痛みに顔をしかめる。
「確かに、次が本番だ……」
欠片を狙う影の存在は確実に迫っている。
路地裏の静けさは戻ったが、三人の胸には、新たな戦いの予兆が重く刻まれていた。