第51話「影の訪れ」
穏やかな朝の街を歩く三人。しかし、微かに異質な視線が背後を追っていた。
アルトは胸の欠片に触れ、かすかな脈動を感じ取る。通常よりも鋭く、そして冷たい感触だ。
「……誰か、近くにいる」
アルトが小さくつぶやくと、セシリアとヴェイルも警戒の姿勢を取った。
路地裏の古い商店街に差し掛かると、子どもたちが遊ぶ姿の向こうに、黒い外套を羽織った影が見え隠れする。
光の加減か、それとも本当に──三人の胸の欠片が微かに震えた。
ヴェイルが低く声をかける。
「奴らだ……欠片を狙う者の気配がある」
セシリアは迷わずアルトの腕を握り、歩みを止める。
「ここで不用意に動いたら、街の人に迷惑がかかる……」
影はさらに接近する。だが、街の人々には見えていない。まるで闇の中でだけ存在するかのようだ。
アルトは欠片の力を意識して周囲を見渡す。
「力を使えば気配を探れる……でも、暴発は危険だ」
三人は慎重に距離を詰める。やがて、影の正体が姿を現す。
それはカーディナルの新たな刺客──黒衣に銀の装飾を施した者だった。手には光を吸い取る装置が備わっている。
「……欠片は、必ず手に入れる」
刺客の低い声が路地に響く。周囲の空気が一瞬凍りついたかのように重くなる。
アルトは剣を構え、セシリアは杖に手をかける。ヴェイルも炎を手に呼び寄せ、三人は一列に並んだ。
欠片を守る決意と、日常を壊させまいとする緊張が、街路に張り詰める。
影の刺客が動いた瞬間、街路の光と影が交錯し、三人と刺客の間で静かな間が張られる。
それは、日常の平穏が脆くも崩れ去る前触れだった。