第50話「欠片の余韻」
翌朝、街は穏やかな光に包まれていた。
アルト、セシリア、ヴェイルは、昨日の広場から少し離れた静かな路地を歩いていた。
アルトは胸の欠片を触りながら、まだ脈打つ微かな痛みに気づく。
「……昨日より少し強くなっているな」
セシリアが隣で眉をひそめる。
「無理はしないでね。体に異変が出たら困るわ」
ヴェイルは軽く笑いながら肩をすくめる。
「まあ、アルトなら大丈夫だろ。……でも、欠片の力って時々、思わぬ形で反応するんだよな」
歩くたびに、欠片の光が微かに周囲の空気を揺らすように輝き、時折小さな風が生まれた。
路地の奥、古びた本屋の前で、一枚の紙がふわりと舞い落ちる。
光に反応してアルトの欠片が淡く脈動する。
彼が近づくと、その紙には古代文字とともに青い光の紋様が浮かび上がった。
「……これは……欠片が呼んでいる?」
セシリアも手を伸ばすが、触れた瞬間、光が二人を包み込み、温かさと小さな痛みが同時に走った。
紙に映し出されたのは、先日の戦いで影の王が告げた「代償」の一部だった。
『守る意志が強ければ、その影響は連鎖する』
ヴェイルが口を開く。
「つまり……欠片の力は、俺たちだけでなく、この街や人々にまで少しずつ影響を与える可能性があるってことか?」
アルトは黙って紙を握りしめ、深呼吸した。
「力は、守るためのもの。でも、使い方を誤れば……代償は誰かに跳ね返る」
セシリアが微笑む。
「だからこそ、三人で支え合わなきゃね」
ヴェイルも頷き、三人は再び歩き出した。
街路に朝日が差し込み、欠片の青い光と混ざり合う。
三人の影は長く伸び、揺れる光の中で、まるで未来を予見するかのように動いていた。
――日常の平穏と、欠片の力の余韻。
その狭間で、三人は新たな試練に備えながらも、静かに歩みを重ねていった。