第42話「影を呼ぶ者」
書庫を抜けた三人は、久々に外の空気を吸った。
冷たい夜風が頬を撫で、街灯の光が微かに影を落としている。
「やっと外に……」
セシリアが小さく息をつく。だが、その顔には安堵よりも、次の覚悟が宿っていた。
「……安心はできない。欠片を持つ限り、奴らは黙っていない」
アルトは胸の欠片を握り締め、目を細める。
その瞳の奥には、青白い光がかすかに宿っていた。
街の向こうから、低く不気味な声が響く。
『ふふ……やっと姿を現したか、選ばれし者たちよ』
ヴェイルは肩越しに振り返る。
「……奴か」
暗闇の中、赤い瞳が光り、黒いマントの影が揺れた。
そこに立つのは、影の王とは別の存在。
影の王の試練を見守り、そして欠片の力を狙う者――『影を呼ぶ者』だった。
アルトは剣を抜き、セシリアも杖を構える。
ヴェイルは炎を手に帯び、三人は互いに視線を合わせた。
「守るべきものがある以上、逃げられない。行くぞ!」
『影を呼ぶ者』は笑みを浮かべ、闇を操る力を解き放つ。
地面から黒い影の触手が伸び、街灯をなぎ倒しながら三人に迫る。
セシリアが祈りの声を上げると、光の結界が周囲を包み込む。
「アルト! 今だ!」
アルトは胸の欠片の力を剣に集中させ、青白い蒼炎を放つ。
炎が闇を切り裂き、触手を粉砕する。
しかし、『影を呼ぶ者』は笑みを崩さず、さらに巨大な影を呼び出す。
街の路地が次々と闇に包まれ、三人を孤立させる。
ヴェイルは拳を握り、燃え上がる炎で影を迎え撃つ。
「全力だ! 一歩も退かねえ!」
三人の力が交錯し、蒼炎と白光、炎が渦を巻く。
だが影の力は依然として圧倒的で、次々に形を変え、三人を翻弄する。
アルトは胸の欠片を強く握り、冷たい痛みに耐えながら叫ぶ。
「俺たちは……負けない! 何があろうと、絶対に!」
その瞬間、欠片が眩い光を放ち、三人の周囲を包み込む。
影の力がその光に触れ、もがき、次第に形を保てなくなっていく。
闇と光――そして代償の力が交錯する中、戦いの行方はまだ見えない。
だが確かなことが一つあった。
三人は力を合わせる限り、立ち止まることはない。