第40話「ルナの涙の真実」
試練の広間を抜けた先に、三人はついに最後の扉の前に立った。
扉には、淡く青白い光が流れ、先ほどの欠片の光と共鳴している。
「ここが……すべての答えの場所か」
アルトは剣を握り、深く息を吸い込む。胸の欠片が痛みを伴いながら脈打ち、力を与える感覚が全身に走った。
セシリアは手をアルトの腕に添え、静かに言った。
「私たち、ここまで来た。恐れずに真実を見よう」
ヴェイルも頷き、剣の柄を握り直す。
「全てを知る覚悟があるなら……進むしかない」
三人が扉に触れると、光が一瞬強く跳ね、意識がふっと浮いた。
目を開けると、そこは青い光に満ちた空間――まるで時間も場所も溶けたかのような異界だった。
中央に浮かぶのは、一片のルナの涙――欠片ではなく、完全な青い結晶。
光は穏やかで美しいが、胸の奥に静かに重くのしかかる感覚がある。
欠片を通じて感じた代償の全貌が、まざまざと三人の前に現れたのだ。
『私は、光と闇の均衡を司る存在……選ばれし者の心に応じて力を与え、同時に魂の一部を奪う』
空間に響く声は柔らかく、しかし冷徹だった。
アルトは胸の欠片を抱きしめる。
「つまり……力を得るたびに、俺たちは何かを失ってきたのか……」
痛みの正体が、代償として己の記憶や感情、失った者への後悔を反映していたことを理解する。
セシリアは青い光を見つめ、静かに言った。
「でも……私たちが選んだのは、この道。恐れずに進む覚悟も一緒に選んだ」
ヴェイルも言葉を重ねる。
「代償を受け入れること……それこそが力を真に使う条件だったんだな」
ルナの涙が淡く振動し、三人の心に問いかける。
『覚悟を持って、私の力を完全に受け入れるか――?』
アルトは深く息を吸い、胸の欠片を光にかざした。
「……受け入れる」
セシリアも祈るように手をかざし、ヴェイルも剣を突き出す。
三人の意志が一つに束ねられると、ルナの涙は完全な光を放ち、三人を包み込んだ。
その瞬間、代償としての痛みが強烈に走る。
しかし、光の力と共鳴し、心の深奥にあった迷いや後悔が浄化される感覚――痛みは消えずとも、希望に変わる。
『よくぞ、覚悟を持った。これが、選ばれし者の力の真実――』
三人は静かに目を開け、互いの顔を見た。
そこには恐怖も迷いもなく、ただ確かな決意と絆があった。
光が収まると、ルナの涙は欠片として三人の前に舞い降りる。
完全なる力と、代償の記憶――それを胸に、三人は新たな試練へと歩み出す準備を整えたのだった。