第39話「代償と試練の狭間」
水晶の光が消え、三人の足元には新たな広間が広がっていた。
光は穏やかだが、周囲には冷たい空気が漂い、試練の余韻を感じさせる。
「……ここも静かすぎる」
ヴェイルが呟く。目を凝らすと、壁に不気味な影が揺れている。
「気を抜くな。影はまだ……」
アルトが剣を握り直す。胸の欠片がかすかに光り、代償の痛みが静かに波打つ。
痛みは消えない。だが、それを受け入れる覚悟が、力となってアルトの身体を支えていた。
セシリアは祈るように手を重ねる。
「私たちは……守るためにここまで来た。恐れは感じるけれど、逃げない」
三人が進むと、広間の中心に不自然な浮遊結界が現れた。
その中には、影のように形を変えた敵――幻影が待ち構えている。
『代償を受け入れたか……ならば次は覚悟の試練だ』
低く響く声に、幻影が次々と形を成す。
それは三人の深層心理や恐怖を投影した存在――心の弱点を突くために生まれた試練だった。
アルトの前に立ったのは、過去に守れなかった人々の姿をした影。
「……俺は、二度と逃げない!」
アルトは剣を構え、痛みを感じながらも胸の欠片の光を解放する。
蒼炎が剣に宿り、幻影を切り裂いた瞬間、心の痛みが波のように襲う。
一方、セシリアの前には、彼女の希望を裏切るような未来の幻影が現れた。
「誰も救えない……」
声に揺れるセシリアだが、手を握るアルトの温もりを感じ、祈りを捧げる。
光の祈りが幻影を浄化し、未来への不安を打ち消す。
ヴェイルは炎に包まれた自分自身の弱さと向き合う幻影と対峙する。
「力は、己だけのためじゃない」
己の信念を振り絞り、炎を全身に走らせ、幻影を燃やし尽くす。
三人は互いに支え合いながら、次々と心の試練を乗り越えた。
しかし、代償は確かに存在していた――
力を使うたび、胸の欠片は痛みを増し、深く刻まれた記憶と後悔を呼び覚ます。
「……代償と試練、両方を受け入れる覚悟が必要なんだ」
アルトは剣を握り締め、痛みを噛みしめながらも前に進む。
セシリアとヴェイルも同じように、痛みを受け入れた目で未来を見据えていた。
その時、広間の奥から、かすかに光が揺れる。
三人は互いに目を合わせ、静かに頷く。
「……あそこに、次の扉がある」
試練は続く。しかし、代償を受け入れた三人は、以前よりも確実に強く、そして一つに結ばれていた。