第38話「真実の扉」
三人は玉座の背後に現れた扉の前に立ち、青白い光に包まれたその表面を見つめた。
古代文字で「真実」と刻まれた扉は、まるで彼らの意志を試すかのように微かに脈動していた。
「……行くぞ」
アルトが握る胸の欠片が熱を帯び、彼の決意を映し出す。
セシリアは深く息を吸い込み、祈るように手を組む。
ヴェイルは炎を灯すように拳を握り、力を集中させた。
三人が揃って扉に触れると、光が一気に炸裂し、視界が真っ白に染まった。
次に目を開けると、そこは広大な水晶の世界――光と影が織りなす幻想的な空間だった。
「ここが……真実の世界?」
セシリアの声に、光が淡く揺れる。周囲の水晶に映るのは、三人の姿――しかし微妙に異なる影が伴っている。
アルトは胸の欠片を見つめる。脈動は強くなり、痛みと共に何かを告げるように震えていた。
「代償……か」
欠片が示す感覚は、力を使うごとに心の一部を削り取ることを意味していた。
過去の痛み、失った者たちへの後悔、守れなかった瞬間――すべてが具現化して襲いかかる。
ヴェイルは影を見据えた。
「ここまで来たら、逃げられないな。代償を背負ってでも、真実を見届けるしかない」
水晶の中心に浮かぶのは、巨大な青い光――ルナの涙そのものだった。
しかし光の中には、影のような黒い渦が巻きつき、力を受け入れた者に試練を与えるように蠢いている。
「これが……全ての答え……?」
セシリアの声が震える。
アルトは欠片を胸に押さえ、痛みに耐えながら前へ進む。
光の渦が彼の意志を試すように伸び、心の奥底に封じた恐怖や後悔を次々と具現化させた。
――失った者たちの姿。
――守れなかった瞬間の痛み。
――己の弱さに苛まれる記憶。
三人はそれぞれに苦しみながらも、互いの手を取り、支え合った。
光は彼らを試すが、三人の絆はそれを凌駕する。
「俺たちは……守る!」
「希望を捨てない!」
「そして真実を知る!」
胸の欠片が一層強く脈動し、三人の意思が光の渦と共鳴する。
水晶の世界全体が輝き、黒い影が次第に晴れていく。
その瞬間、静寂が訪れた。
ルナの涙の光は、穏やかに脈打ち、代償として心の一部を奪った痛みを示す。
「……これが、代償の正体か」
アルトの声は静かだが、確かな理解がそこにあった。
力は、守る意志と引き換えに、深い痛みと覚悟を要求する――それが、ルナの涙の試練だった。
三人は互いに顔を見合わせ、静かに頷く。
代償を受け入れることで、初めて真実を手にすることができるのだと――。
水晶の世界の光が収束し、三人を次の空間へ導く。
そこには、新たな試練と、ルナの涙を狙う者たちの影が待っていた。