18.夜光の記憶(ルクス・メモリア)~狙われた影~
雨が静かに石畳を濡らしていた。
深夜の美術館。事件から一週間が経ち、展示室には警備が強化された最新鋭のセンサーと警備ドローンが導入されていた。
それでもなお、警備主任は不安げにモニターを見つめていた。
「ファントムは、また来ると思いますか?」
質問に答えたのは、白衣を着た青年だった。
「来るだろうな。やつは、盗むことより“示す”ことに意味を見出している。これは…挑発の連続だ」
彼の名は柊シオン。政府の依頼で動く民間解析官で、かつて“天才ハッカー”としてその名を轟かせた人物だった。
シオンはモニターのログに目を走らせながら、手元の端末に何かを書き込む。
「ファントムの手口は美しい。だが、それはパターンの裏返しでもある。次に動くとしたら…“光”を利用するだろう」
「光…ですか?」
「前回は“影”が主役だった。だが、影が存在するには光がいる。彼女は自分の存在を相対的に示している。次は、もっと大きな舞台になる」
その頃、街の片隅。とある廃ビルの屋上に、ファントムが立っていた。
黒いコートが風になびき、夜のネオンに赤い瞳が反射する。
「来たか、新しい“観客”が」
彼女はすでにシオンの存在を察知していた。相手は舞台裏のプロ。だが、だからこそ、踊る価値がある。
「舞台は整った。次は――“盗まれる側”が試される番ね」
空が割れ、稲光がファントムの姿を浮かび上がらせた。