第36話「影の王の力」
漆黒の嵐が渦を巻き、三人を飲み込もうとする。
玉座から立ち上がった“影の王”は、ゆらめく闇を纏いながら一歩踏み出すだけで、空間そのものを歪ませた。
『代償を知りながら、それでも進むか……愚かで、しかし愛おしい意志よ』
その声は低く、耳元で囁くように、そして大地を揺るがすように響いた。
アルトは剣を構え、胸の欠片が痛みに共鳴するのを感じ取った。
「……代償がどうであれ、俺は仲間を守る。たとえ魂を削ることになっても!」
影の王が笑った。
『ならば見せよ。己の覚悟を――』
次の瞬間、闇から無数の腕が伸び、三人へ襲いかかる。
セシリアが祈りの光で結界を張るが、その闇は容易く突き破り、彼女を後方へ弾き飛ばした。
「くっ……!」
ヴェイルが素早く前に出て、炎の刃で闇の腕を切り払う。
だが切り裂いたはずの影はすぐに再生し、二重三重に絡みついてくる。
「再生する……!?」
「普通の力じゃ倒せない!」セシリアが叫ぶ。
アルトの胸の欠片が強く脈打つ。
光と痛みが同時に走り、剣先に淡い青い輝きが宿った。
「……この力なら!」
渾身の一閃が放たれ、闇の腕の群れを貫いた。
再生していた影が一瞬だけ消滅し、空間が揺れる。
だが――影の王は微動だにせず、紅の瞳を細めていた。
『ほう……確かに“ルナの涙”は応えた。だが、その痛みをお前は耐えきれるのか?』
次の瞬間、アルトの胸に鋭い痛みが走り、膝が崩れそうになる。
「ぐっ……!」
剣を支えに耐えるアルトの姿に、セシリアとヴェイルが駆け寄った。
「アルト!」
「無理するな、あんたが倒れたら終わりだ!」
影の王はゆっくりと両腕を広げ、漆黒の嵐をさらに広げていく。
『代償を背負わぬ者に、この力は扱えぬ。だが――それを背負う者は必ず破滅する』
闇が収束し、巨大な刃を形作っていく。
次の一撃は、三人を一瞬で飲み込むだろう。
アルトは痛みに耐えながら立ち上がり、仲間に叫んだ。
「セシリア、ヴェイル! 俺を支えてくれ! この力を……三人で扱うんだ!」
二人は一瞬だけ驚いたが、すぐに頷いた。
セシリアの祈りが青い光を導き、ヴェイルの炎が剣を包み込む。
三人の意志が一つに繋がった瞬間――剣は眩い蒼炎を宿した。
「これが……俺たちの力だ!」
アルトは叫び、迫りくる影の刃へと踏み込んでいった。