第34話「己を超える刃」
闇に満ちた大地で、三人の影が同時に襲いかかってきた。
その一撃一撃は、ただの剣戟ではない。心の奥底に眠る後悔や恐怖が形を成し、肉体だけでなく精神を切り裂こうと迫っていた。
アルト vs 血に濡れた影
アルトの影は、返り血にまみれた剣を振り下ろす。
「守るだと? お前は何一つ守れなかった!」
刃がぶつかるたびに、仲間を失った記憶が脳裏に蘇り、胸をえぐった。
だがアルトは剣を押し返し、叫ぶ。
「確かに……俺は失った! だが、だからこそ次は守る! 俺は逃げない!」
その言葉に応えるように、剣先が光を帯び始めた。
セシリア vs 闇の祈り
セシリアの影は冷笑し、黒い光を放つ。
「あなたの祈りは空虚。誰も救えない」
その言葉に、セシリアの心臓が締め付けられる。信じてきたものは幻想なのか――。
彼女は膝をつきそうになりながらも、胸の十字架を強く握りしめた。
「いいえ……祈りは弱さじゃない。恐怖を知っているからこそ、私は光を求めるの!」
闇に押しつぶされそうな中で、彼女の祈りは逆に眩い光となり、影の闇を溶かし始めた。
ヴェイル vs 炎の影
ヴェイルの影は灼熱の双剣を振るい、嘲笑する。
「結局お前は仲間なんて要らない。強さだけを求めている」
炎に焼かれ、皮膚が焦げる幻覚さえ襲ってくる。
だがヴェイルは炎に包まれながらも吠えた。
「俺は……力を欲している! だがそれは一人で戦うためじゃない! 仲間を守るためだ!」
その瞬間、彼の剣に宿る炎は澄んだ蒼炎へと変わり、影の炎を押し返した。
三人の影が苦悶の声をあげ、次第に輪郭を崩していく。
アルトは深く息を吐き、仲間の方へ目を向けた。
「……分かっただろ。影は俺たちを否定してたんじゃない。俺たちが抱えてきた弱さを、映してただけだ」
セシリアは涙を拭い、微笑む。
「弱さを受け入れたとき……私たちは本当の強さを得られるのね」
ヴェイルも肩をすくめ、豪快に笑った。
「ハッ、手厳しい稽古だったぜ。だが……悪くねぇ」
闇は裂け、虚無の大地が光に飲み込まれていった。
三人はそれぞれの影を越え、新たな力を手にした。
だが、光の先に待っていたのは――さらに深い“試練”の扉だった。