第33話「影との対峙」
扉の向こうに広がっていたのは、漆黒の大地だった。
空も地も存在しないように思える深淵――ただ、虚無の闇が永遠に続いている。
三人は一歩足を踏み入れるごとに、背筋を冷たく這うものを感じた。
やがて、闇の中に三つの光が浮かび上がる。
それは、まるで彼ら自身を映す鏡のように――姿を形作っていった。
「これは……俺……?」
アルトの前に現れたのは、血に濡れた剣を握る“もう一人のアルト”だった。
その瞳は絶望に染まり、唇はゆがんで笑っている。
『守る? 守るだと? お前は結局、守れなかったじゃないか。
失った痛みから逃げただけだ。仲間を言い訳にして……代償を押しつけただけだ!』
鋭い言葉が胸を貫き、アルトは息を詰まらせた。
一方、セシリアの前に現れた影は、氷のように冷たい表情をした自分自身。
『祈り? 希望? そんなもの無意味よ。結局、誰も救えない。
あなたが信じる光は、ただの幻想……本当は心の奥で怯えてる』
セシリアは震える手を胸に当てた。確かに、その言葉は心の奥を突いていた。
そしてヴェイルの影は、炎に包まれた己の姿だった。
『仲間? 信念? 笑わせるな。お前が求めているのは力だろう。
結局、自分を守るために剣を振るっているだけだ』
ヴェイルの眉がわずかに動く。
その言葉が全て嘘だと言えないことを、彼は理解していた。
三人の影は、それぞれの弱さを突きつけながら、同時に武器を構えた。
アルトの影は血の剣を、セシリアの影は黒い光の杖を、ヴェイルの影は炎の双剣を――。
「……やっぱり、そういうことか」
アルトは唇をかみしめ、仲間に向けて言った。
「これは俺たち自身との戦いだ。逃げられない」
セシリアは深く息を吸い込み、震えを押し殺して頷いた。
ヴェイルも肩を揺らし、笑みを浮かべる。
「いいじゃないか。自分を超えるなんて、燃える試練だ」
三人はそれぞれの影と向き合い、剣を、祈りを、そして炎を構える。
闇が渦巻き、虚無の大地が震えた。
己の影を倒せなければ、真実には辿り着けない。
そして、倒すとは――拒絶することではなく、受け入れることなのだと、誰もが薄々感じていた。
「行くぞ――!」
アルトの叫びとともに、影との決戦が始まった。