表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
175/206

第33話「影との対峙」

 扉の向こうに広がっていたのは、漆黒の大地だった。

 空も地も存在しないように思える深淵――ただ、虚無の闇が永遠に続いている。


 三人は一歩足を踏み入れるごとに、背筋を冷たく這うものを感じた。

 やがて、闇の中に三つの光が浮かび上がる。

 それは、まるで彼ら自身を映す鏡のように――姿を形作っていった。


「これは……俺……?」

アルトの前に現れたのは、血に濡れた剣を握る“もう一人のアルト”だった。

その瞳は絶望に染まり、唇はゆがんで笑っている。


『守る? 守るだと? お前は結局、守れなかったじゃないか。

 失った痛みから逃げただけだ。仲間を言い訳にして……代償を押しつけただけだ!』


 鋭い言葉が胸を貫き、アルトは息を詰まらせた。


 一方、セシリアの前に現れた影は、氷のように冷たい表情をした自分自身。

『祈り? 希望? そんなもの無意味よ。結局、誰も救えない。

 あなたが信じる光は、ただの幻想……本当は心の奥で怯えてる』


 セシリアは震える手を胸に当てた。確かに、その言葉は心の奥を突いていた。


 そしてヴェイルの影は、炎に包まれた己の姿だった。

『仲間? 信念? 笑わせるな。お前が求めているのは力だろう。

 結局、自分を守るために剣を振るっているだけだ』


 ヴェイルの眉がわずかに動く。

 その言葉が全て嘘だと言えないことを、彼は理解していた。


 三人の影は、それぞれの弱さを突きつけながら、同時に武器を構えた。

 アルトの影は血の剣を、セシリアの影は黒い光の杖を、ヴェイルの影は炎の双剣を――。


「……やっぱり、そういうことか」

アルトは唇をかみしめ、仲間に向けて言った。

「これは俺たち自身との戦いだ。逃げられない」


 セシリアは深く息を吸い込み、震えを押し殺して頷いた。

 ヴェイルも肩を揺らし、笑みを浮かべる。

「いいじゃないか。自分を超えるなんて、燃える試練だ」


 三人はそれぞれの影と向き合い、剣を、祈りを、そして炎を構える。

 闇が渦巻き、虚無の大地が震えた。


 己の影を倒せなければ、真実には辿り着けない。

 そして、倒すとは――拒絶することではなく、受け入れることなのだと、誰もが薄々感じていた。


「行くぞ――!」

アルトの叫びとともに、影との決戦が始まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ