第30話「絆の声」
暴走する光は止まらなかった。
アルトの周囲から吹き荒れる青白い奔流は、古文書の棚を次々と崩し、書庫そのものを飲み込もうとしていた。
影の騎士でさえも後退し、闇の大剣を盾に光を防いでいる。
だが、それ以上に危ういのは――アルト自身だった。
彼の腕や頬には光の亀裂が走り、まるで人の形を保てなくなっていく。
「やめて! アルト!」
セシリアが必死に叫ぶ。
しかし、アルトの耳には届かない。
「俺は……守る……! 誰も……もう……失わせない……!」
その声は、痛みと狂気の狭間に揺れていた。
ヴェイルがセシリアに向かって叫ぶ。
「お前しか止められない! 行け!」
セシリアは頷き、光の奔流に身を投げ出した。
「アルト! 聞いて! 私は……私はまだここにいる!」
光の衝撃で吹き飛ばされながらも、彼女は必死にその胸へ手を伸ばす。
――そして触れた。
その瞬間、アルトの脳裏に走馬灯のような光景が流れ込む。
幼き日の笑顔、かつての仲間たち、失ったもの……そして今も隣にいるセシリアとヴェイル。
「アルト……あなたはひとりじゃない」
「俺たちがいる。だから自分を壊すな」
二人の声が重なったとき、光がゆっくりと沈静化していった。
暴走しかけていた欠片が、脈動を弱め、再び胸の奥に収まる。
アルトは膝をつき、荒い息を吐いた。
「……セシリア……ヴェイル……」
セシリアは震える手で彼の頬を支え、涙を浮かべながら微笑んだ。
「戻ってきてくれて……よかった」
ヴェイルは腕を組んでそっぽを向きながらも、口元に小さな笑みを浮かべる。
「まったく……無茶ばかりする」
しかし、安堵の時は長くは続かない。
影の騎士が再び立ち上がり、大剣を構え直した。
その眼光は、先ほどよりもさらに強い光を宿している。
「試練は、まだ終わっていない」
三人は互いに視線を交わし、再び立ち上がった。
――暴走を超えて結ばれた絆を胸に、真実を掴むために。