第29話「暴走する欠片」
轟音とともに大剣が振り下ろされ、石床が大きく裂けた。
影の騎士の一撃は、ただの力ではない。ルナの涙と同じ源から生まれた“影の力”が宿っていた。
「アルト、下がれ!」
ヴェイルが詠唱を終え、両手を前に突き出す。
炎と雷が絡み合った矢が放たれ、影の鎧を撃ち抜いた。
だが――闇がそれを呑み込み、ただの火花に変えてしまう。
「……効かないのか」
ヴェイルが歯を噛み締めた瞬間、影の騎士が振り向き、大剣を横薙ぎに振る。
避ける間もなく、セシリアの方へ黒い衝撃波が迫った。
「セシリアッ!」
アルトの叫びと同時に、胸の欠片が強烈な光を放つ。
青白い壁が瞬時に展開され、衝撃波をかき消した。
だが――。
光は止まらない。
欠片が脈打ち、アルトの体を包むように光が暴れ出す。
瞳にまで青い輝きが宿り、その身から溢れる力は仲間にまで圧力を与えた。
「アルト! そのままだと……!」
セシリアが必死に呼びかけるが、アルトは自分の意志で制御できなくなりつつあった。
頭の奥で、あの石碑の言葉が木霊する。
――守る意志が強ければ強いほど、その代償は深くなる。
「……代償……これが……」
アルトは苦悶の声を漏らしながら、それでも影の騎士に剣を向けた。
「俺は……誰も……失わせない!」
光が一気に解き放たれる。
暴走寸前の欠片の力が、書庫全体を震わせ、影の騎士すらも押し返した。
だがその力は、守るためだけでなく――自らをも蝕もうとしていた。