第28話「書庫を守る影」
石碑の言葉が消えた瞬間、書庫全体が軋むように震えた。
天井から落ちる砂埃の中、影が壁から滲み出すように広がり、やがて人の形を取っていく。
「……守護者か」
ヴェイルが低く呟く。
姿を現したのは、漆黒の鎧に身を包んだ影の騎士だった。両手に握る大剣からは、まるで闇そのものを凝縮したような冷気が漂っている。
青白い炎のような眼光が三人を射抜いた。
「真実を望む者よ。力と覚悟を示せ。さもなくば、この場に永遠に沈め」
言葉と同時に、影の騎士が踏み出した。重い足音が響き、その一歩ごとに床の文様がひび割れていく。
アルトは胸の欠片を強く握った。
――代償がある。それでも使わなければ、この守護者に勝てない。
「アルト!」
セシリアが声を上げるが、彼の決意は揺るがない。
「大丈夫だ。俺は、この真実を必ず掴む」
影の大剣が振り下ろされ、石の床が粉々に砕け散る。
アルトは一瞬の隙を突き、刃の軌跡をすり抜けるように跳び込んだ。
胸の欠片が眩い光を放ち、影の騎士の剣を受け止める。
衝突の衝撃で空気が震え、棚に並ぶ古文書が一斉に宙へ舞った。
「くっ……!」
押し潰されそうな力に抗いながらも、アルトの瞳は決して逸らさない。
セシリアは祈るように手を胸に当て、ヴェイルは素早く詠唱を開始する。
三人の力を合わせなければ、この試練は超えられない――。