17.暁のオブシディアン ~3.暁の真実~
夜の帳が下りた都市の片隅、アルトは静かにカオスグリフの本拠地を見上げていた。冷たい風が吹き抜ける中、彼はゆっくりと息を整える。敵地への単身潜入——危険極まりない行動であることは理解していたが、暁のオブシディアンを取り戻すためには、ここで引き下がるわけにはいかなかった。
カオスグリフのアジトは、市内にそびえ立つ廃工場を改造したもので、鉄骨とコンクリートが剥き出しになった異様な光景が広がっていた。警備の目は厳しく、建物の周囲には見張りが何人も立っている。しかし、アルトはそんな障害を物ともせず、影のように静かに動き出した。
「さあ、ショーの幕開けだ——」
アルトは腰の道具入れから小型のガジェットを取り出し、建物のセキュリティシステムをハッキングする。監視カメラの視界が歪み、数秒後には完全に機能を停止した。これで、一定の時間内ならば内部に潜入できる。躊躇なく屋上へと飛び移り、通気口を通じて建物内部へと侵入する。
アルトが到達したのは、廃工場の中央ホール。そこでは、カオスグリフのリーダーである「グリフ」が、謎めいた男と対峙していた。グリフは長身で鋭い目つきを持ち、漆黒のコートを纏っている。彼の手元には「暁のオブシディアン」があった。
「……これはただの宝石ではない。王が遺した知識の結晶。そして、それを扱う者によっては——力の象徴にもなる」
グリフは静かに語りながら、宝石の表面を指でなぞった。次の瞬間、宝石が怪しく発光し、周囲に微細な振動が伝わる。
「まさか……」
アルトはその異変に驚愕した。オブシディアンは、ただの装飾品ではなかった。かつての王朝が封じた力を内包する存在であり、それを解放すれば、計り知れない影響を及ぼす可能性があったのだ。
「これがあれば、世界は我々の手の内に——」
グリフが宣言した瞬間、アルトは躊躇なく飛び出した。
「悪いが、それは俺の仕事だ。」
アルトの登場に、ホール内の兵士たちが一斉に武器を構えた。しかし、彼はすでに計算済みだった。瞬時にスモークボムを投げ、視界を遮る。そして、迷いなくグリフへと突進した。
混乱の中、アルトは巧みに動きながら、グリフの手元からオブシディアンを奪い取ろうとする。しかし、グリフもまた並の相手ではない。鋭い動きでアルトの攻撃をかわし、鋭利な短剣を突き出した。
「無駄だ、アルト……お前のような盗賊風情が、歴史の重みを理解できるとは思えん。」
「盗賊だからこそ、歴史の間違いを正せるんだよ。」
アルトは反撃の隙を見つけ、グリフの腕を蹴り上げる。短剣が弧を描いて飛び、ついに彼の手から宝石が滑り落ちた。その瞬間、天井が突如として崩れ、一人の影が舞い降りた。
ファントムだった。
「なんの用だ?」
「この前の借りを返しに来ただけ」
二人の短い会話の間に、カオスグリフの兵士たちが反撃の態勢を整えた。だが、ファントムは悠然と手を上げる。
「こっちは準備万端なんだ。」
次の瞬間、ホール全体に閃光が走る。セシリア率いる仲間たちが一斉に突入し、激しい戦闘が始まった。銃声と閃光の中、アルトはセシリアと共にグリフの動きを封じ、ついにオブシディアンを取り戻した。
「このままではいけない……」
アルトはオブシディアンをじっと見つめる。これは奪うだけでは意味がない。再び悪用される可能性を考えれば、完全に封じるしかなかった。
「セシリア、オブシディアンを封印できるか?」
「……方法はある。ただ、膨大なエネルギーが必要よ。」
アルトは決意し、封印の儀を開始する。彼は遺跡から持ち帰った古代の石盤を使用し、宝石の力を封じ込める術式を発動させた。
「君はその力を使いこなせるのか?」 「君は——次に暴走するのは、君自身か?」
アルトはその言葉には答えず、ただ静かにオブシディアンを見つめた。
アルトが封印の術式を完成させた瞬間、オブシディアンが脈動し、深紅の光が彼を包み込んだ。
「……!」
まるで宝石が相手を攻撃するように、主張なエネルギーが流れてくる。 強い意志が脳裏に響き、身体が痺れる。 これはただの封印ではない——オブシディアンがアルトと「共鳴」しようとしている
。
「……俺は、君に飲まれたりしない。」
宝石の光が収束し、静寂が訪れる。オブシディアンは封印される瞬間、アルトと奇妙なを持っていたのだ。そして、完全に封印された。
「終わった……」
アルトは静かに宝石を封印された箱へと収め、それを慎重に持ち去る。
「俺たちは、この力を誰の手にも渡さない。」
ファントムはその言葉を聞き、薄く笑ったが、すぐに背を向けた。
夜明けが近い。
しかし、それでも戦いは終わらない。