第27話「欠片の真実を求めて」
広間を後にした三人は、静かな石の回廊を歩いていた。
足音が響くたびに、祭壇の余韻のような青い光が壁の紋様に淡く反射する。
だが心の中には、先ほどの影の囁きが重く残っていた。
「……代償か」
アルトは低くつぶやき、胸の欠片を握る。
鼓動と同調するように、欠片が淡く脈動している。
そのたび、胸の奥に痛みが走った。
セシリアが隣を歩きながら心配そうに彼を見た。
「アルト、その痛み……本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だ。……いや、少なくとも俺はそう思いたい」
アルトは苦笑を浮かべるが、セシリアの視線に嘘は通じない。
ヴェイルが口を開いた。
「影の言葉は気になる。代償……それが事実なら、この欠片の力は両刃の剣だ」
「でも、欠片を使わなければ影に勝てない」
セシリアの声は震えていた。
「だからこそ、真実を知らなければ……」
三人は無言のまま歩みを進め、やがて広間の先に辿り着く。
そこには重厚な扉があり、扉全体に月のような紋章が刻まれていた。
淡い光が浮かび、まるで「選ばれし者」に開かれるのを待っているかのようだった。
アルトは扉の前に立ち、欠片をかざす。
すると扉の紋章が共鳴し、青白い光が波紋のように広がった。
「……開くぞ」
扉がゆっくりと軋みを上げて開いていく。
その先に広がっていたのは、巨大な書庫のような空間だった。
天井まで届く棚に古文書が並び、中央にはひときわ大きな石碑が立っている。
「ここは……」
セシリアが息を呑む。
「欠片の真実を記した場所……そう思えてならない」
アルトは石碑へと近づき、その表面に刻まれた文字を見つめる。
古代語――だが、欠片を通じて意味が脳裏に流れ込んでくる。
『ルナの涙は、光を与える。
しかし同時に、選ばれし者の魂から何かを奪う。
守る意志が強ければ強いほど、その代償は深くなる』
アルトの背筋に冷たいものが走った。
「……やっぱり、代償は避けられないのか」
セシリアとヴェイルも沈黙し、ただ石碑を見つめていた。
その瞬間、書庫全体に冷たい風が吹き抜け、棚に積まれた古文書が一斉に揺れる。
暗闇の奥から、低い声が響いた。
「真実を知る覚悟があるならば――さらに深く進め」
三人は互いに目を合わせ、無言で頷いた。
真実に迫るほど、影との戦いは避けられない。
それでも進まなければならない――その決意だけが、彼らの足を前へと動かしていた。