第22話「ルナの涙の真価」
光が回廊を満たす中、影は一瞬の沈黙を見せた。
だが、その体から漆黒の霧がさらに広がり、回廊の壁までも侵食する。
「くっ……!」
アルトは欠片の光を握りしめる手に力を込める。
だが、光は影の霧に吸い込まれるように揺らぎ、力が半減していく。
「限界……か?」
ヴェイルも眉をひそめ、剣をさらに強く握りしめた。
「いや……まだだ。俺たちの力、信じる心は負けていない」
セシリアは欠片の光を胸に押し込むと、深く息を吸い込んだ。
「アルト……私たちの心を合わせて」
三人の意志が一つになった瞬間、光は再び脈打ち、回廊の暗闇を裂く。
しかし、影もまた応じ、黒い霧が光を押し返す。
「フ……愚かな……」
影の声は耳に響かず、心を直接揺さぶるかのようだ。
「ルナの涙……その力を甘く見るな」
アルトは心の中で過去を振り返る。
幼い自分が恐怖に震えた夜、セシリアと出会った日、ヴェイルと共に戦った記憶――
すべてが胸の奥で光となり、欠片に宿る。
「わかる……俺は何を守るべきか!」
アルトが叫ぶと、欠片の光がさらに強く輝き、青白い光の渦が回廊全体を包む。
その光に応じ、セシリアとヴェイルも力を最大限に引き出す。
影は漆黒の霧を振るい、姿を変化させる。
赤い瞳の奥から、鋭い光が放たれ、三人を試すかのように襲いかかる。
「これが……真の力……」
ヴェイルは息を呑み、アルトも光の中で歯を食いしばった。
三人の光と影の霧がぶつかり合い、回廊は光と闇が交錯する戦場と化す。
しかし、アルトの心は揺るがない。
「俺たちは……仲間を、守るんだ!」
光は渦を巻き、影を押し返す。
だが、影はまだ完全には消えず、赤い瞳だけが回廊の奥で光を放つ。
「……次に会うとき、お前たちは……」
影は言い残すと、漆黒の霧と共に姿を消した。
回廊に残ったのは、三人の呼吸と欠片の光のみ。
セシリアは額に汗を浮かべながらも微笑む。
「……守れたわね」
ヴェイルも肩を揺らしてうなずく。
「まだ終わっていない……でも、俺たちは進める」
アルトは欠片を胸に抱き、深く息をついた。
「……次に来るときは、もっと強くなる」
光は徐々に静まり、回廊には静寂が戻る。
だが三人の胸には、影が示した次の試練の予感――そしてルナの涙を狙う者たちの影が深く刻まれていた。