第21話「影の覚醒」
闇に残る黒い形――影の中心から、静かに人影が浮かび上がった。
その姿は、人の形をしていながら、全身が漆黒の霧に覆われ、目だけが赤く光る。
「……来たか」
ヴェイルが剣を握りしめ、足を踏みしめる。
「奴がルナの涙を狙う者……だな」
セシリアは欠片の光を胸に押し込み、深呼吸する。
「光が……私たちを導いてくれるわ」
アルトはその間、影をじっと見つめた。
心の奥底で、欠片と自分の意思を一つにする。
「……俺は……絶対に守る!」
黒い影はゆっくりと動き出し、闇の波動を放つ。
その力は回廊を震わせ、三人の心を揺さぶる。
「覚悟しろ!」
ヴェイルの声と共に、アルトの欠片が青白い光を放つ。
光は三人を包み、影の攻撃を反射するように拡散した。
セシリアも手をかざし、欠片の光を集中させる。
「私たちの心を、力に!」
光が交差し、三人の意志が一つになると、影の攻撃は徐々に押し返される。
だが、影は完全には消えない――その目が赤く光り、冷たい笑みを浮かべた。
「まだだ……お前たちの力など、試練にすぎぬ」
アルトは心の中で、幼い頃の恐怖、セシリアやヴェイルへの想い、守るべきものすべてを思い返す。
欠片の光はそれに呼応し、さらに強く輝く。
三人は無言で互いに視線を交わし、完璧な呼吸で動く。
アルトの光が影に向かって放たれ、ヴェイルの剣が光の波を導く。
セシリアはその光を増幅させ、回廊全体を光で満たす。
影はうめき、後退を強いられる。
だが、その目にはまだ戦意が宿っている。
「……次こそ、お前たちを葬る」
光が回廊を支配し、三人の心は一つとなった。
守るべきもののために、戦う意志は揺るがない。
だが、影の声が告げる――試練はまだ序章にすぎない。
真の戦いは、これから始まるのだ。