第16話「深淵の覚悟」
空間の歪みが最高潮に達し、三人の周囲には過去の後悔や恐怖の幻影が渦巻いた。
セシリアは目を見開き、胸を押さえる。
「これは……私の弱さ……」
アルトの前には、守れなかった人々の姿が現れ、痛ましい声が響いた。
「また、誰かを失うのか……?」
胸に突き刺さる感覚に、アルトの手は自然と欠片に伸びる。
「俺は……守る。もう二度と、誰も失わせはしない!」
ヴェイルもまた、自分の信念に疑念を抱かせる幻影に囲まれる。
「俺の選択は間違っていたのか……」
その声は心の奥にまで届く。だがヴェイルは深呼吸し、目の前の仲間を見た。
「違う。信じるものを裏切らない。それが俺の道だ」
三人の心が揺るぎなく結ばれると、ルナの涙の欠片が強く光り始めた。
光は渦となり、恐怖の幻影を巻き込み、消し去っていく。
「光……これが、力……」
アルトの瞳に確信が宿る。
その瞬間、影の声が響いた。
「なるほど……心は一つ。だが、試練はまだ終わらぬ」
光の中から、巨大な青白い結晶の影が浮かび上がる。
それはルナの涙の真の姿――原石の力を凝縮した存在だった。
「触れる者の意志を試す……最後の試練だ」
アルトは胸元の欠片を握りしめ、仲間の手を取り直す。
「俺たちは……恐怖に屈しない!一緒に進む!」
セシリアも、ヴェイルも力強く頷き、三人は結晶に向かって歩を進めた。
結晶が脈動する度に、光が三人の心の深淵に潜む恐怖を映し出す。
だが、今や彼らは恐怖を恐れず、仲間と共に立ち向かう意志に満ちていた。
「これが……真の力か……!」
アルトの声に応えるように、結晶は強烈な光を放ち、三人を包み込んだ。
その光の中で、三人は一瞬、無限の空間に漂うような感覚を覚えた。
恐怖も不安も痛みも、すべてが光に溶け、心に残ったのは確かな覚悟だけだった。
光が収まると、前方には静かに輝くルナの涙の結晶が浮かんでいた。
そして、三人は確信した――これから待ち受ける戦い、そして試練に立ち向かう力が、確かに手に入ったのだと。