第9話「誓いの代償」
青白い光が三人を包み込み、祭壇の前で時間が止まったかのように感じられた。
アルトは瞳を閉じ、胸の奥に刻まれた痛みと向き合う。
記憶の断片が押し寄せ、セシリアの笑顔、ヴェイルの冷静な目、そして幼いころの自分――すべてが試される。
「俺は……俺は何を守るべきだ?」
小さくつぶやいたその声に、祭壇の光が微かに揺れる。
セシリアはアルトの肩に手を置く。
「アルト……あなたが大事にしているもの、見失わないで」
その声は、闇の中で迷うアルトの心を支えた。
ヴェイルも静かに口を開く。
「俺たちは三人でここにいる。個々の力だけじゃない……信じる心を忘れるな」
その瞬間、祭壇の光が一層強くなり、三人の意志を問いかけるように揺れた。
青い結晶――ルナの涙の原石が、まるで呼吸をしているかのように脈動する。
アルトは深呼吸し、心の奥底で誓う。
「守る……セシリア、そして仲間を。俺は、この手で何があっても守る」
胸の痛みが一瞬、光に溶けるような感覚が走った。
それは、失うことの恐怖と向き合った者だけに与えられる――選ばれし者の証だった。
セシリアは、アルトの決意を感じ取り、そっと微笑む。
「それでいい……あなたは、私たちを導く光」
ヴェイルも肩を揺らしてうなずいた。
「ならば俺も、俺の信念で支える。共に進もう」
三人の心が一つになると、祭壇の光は鋭い閃光を放ち、瞬間的に視界を奪った。
目を開けると、三人の前には小さな光の結晶――ルナの涙の欠片が浮かんでいた。
その欠片は、触れる者の心と意志を映し出すかのように、淡く揺れている。
アルトは手を伸ばし、そっと光の欠片に触れる。
胸の奥で痛みが再び走るが、同時に力が宿る感覚――
これが、ルナの涙の力の一端なのだと、アルトは理解した。
「これが……誓いの代償か」
小さくつぶやきながら、アルトは欠片を胸元に収めた。
その瞬間、回廊の歪みが消え、祭壇は静寂を取り戻す。
しかし、静寂の奥に、淡い不安が残る。
「代償は……まだ終わっていない」
アルトの心に囁くのは、光の力が示す未来の影――
これから待ち受ける試練と、ルナの涙を狙う者たちの影であった。
三人は互いに視線を交わし、決意を新たに歩き出す。
闇の回廊を抜けた先には、新たな世界――そしてさらなる試練が待っている。