第6話「代償の刻印」
祠を揺るがす轟音の中、星喰らいの王の虚空はますます膨れ上がっていった。
星座が消えていく速度は早まり、夜空そのものが破滅に飲み込まれるのも時間の問題に思えた。
「代償……」
アルトは唇を噛んだ。
「盗み返すことはできても……失うことを覚悟するなんて、俺は……」
ヴェイルが低く言い放つ。
「俺は、構わない。呪いを終わらせるなら、この命でも。」
その言葉に、アルトは目を見開いた。
「ふざけるな! お前まで消えたら、何のためにここまで来たんだよ!」
二人の声がぶつかり合う。
セシリアは結界を必死に維持しながらも、必死に叫んだ。
「代償は命だけじゃないはず! 何を捧げるかは、あなたたち自身が選べる……!」
その瞬間、ルナの涙が震え、二人に幻視を見せた。
そこは、星々の記憶が流れる回廊――「契約の記録」が眠る場所。
無数の光の断片が浮かび、過去の声が響く。
『選ばれし者よ。誓いは代償を求める。
記憶を捧げるか、絆を手放すか、それとも命を削るか。
いずれにせよ、失わねば道は拓けぬ。』
アルトの胸に、ざわめきが走った。
――記憶を失えば、盗んだ過去も、仲間との日々も消える。
――絆を失えば、セシリアもヴェイルも守れない。
――命を失えば……もう、この先を見ることはできない。
「選べって……俺に、そんなの……!」
アルトの拳は震えていた。
ヴェイルは虚空を睨みつけたまま、静かに言う。
「アルト。俺はもう決めてる。過去も未来も呪いに縛られた俺に残ってるのは、命だけだ。だから、それを――」
「やめろ!」
アルトの叫びが祠を震わせた。
「そんな選び方、間違ってる!」
セシリアが涙を浮かべながら、必死に訴える。
「代償は、一人のものじゃない! 二人で背負うことだってできるはず……!
アルト、ヴェイル……二人で誓って……!」
ルナの涙がさらに強く輝き、祠全体が青い光に包まれる。
星喰らいの王が咆哮を上げ、虚空を揺るがす。
その中で、アルトとヴェイルは互いの手を強く握りしめた。
「……だったら、二人で払う。記憶も、絆も、命も――半分ずつだ!」
二人の誓いが重なった瞬間、ルナの涙は眩い光となり、二人の手の甲に刻印を刻み込んだ。
それは星々を繋ぐような紋様――「契約の刻印」。
クロノスの幻影が低く告げる。
「これで……新たな継承が始まる。だが、その代償がどのような形で現れるかは……まだ誰にも分からぬ。」
星喰らいの王が苦悶に揺らめき、虚空にひび割れが走る。
だが同時に、そのひびから漏れ出した闇はさらに濃く、祠を侵食していった。
「……これで終わりじゃない。」
ヴェイルは息を荒げながら言う。
「代償を払った以上、後戻りはできない。最後まで……決着をつけるぞ。」
アルトは刃を掲げ、祠に響く声で叫んだ。
「――盗み出す! 星喰らいの王から、この宇宙の未来を!」
そして、光と闇の激突が始まった――。