第5話「契約の継承者」
轟音とともに祠の天井が崩れ落ち、砂塵が舞い上がる。
その中心に立つ「星喰らいの王」は、ゆらめく虚空の胸を開き、無数の星の光を吸い込んでいた。
空に描かれた星座はひとつ、またひとつと失われ、まるで夜空そのものが喰われていく。
「……これ以上、奪わせはしない!」
アルトは刃を握りしめ、青白い光を放ちながら突進する。
その背に、ヴェイルの矢が重なった。黒い影を裂く矢光と、刃の煌めきが交差し、王の虚空を貫かんと迫る。
だが――王の虚空は二人の攻撃を飲み込み、まるで何もなかったかのように揺らめいただけだった。
返すように放たれた衝撃波が、祠全体を吹き飛ばす。
セシリアが結界を展開して二人を庇うが、結界はひび割れ、彼女自身の頬に血が滲む。
「このままじゃ……全部、喰われる……!」
ファントムが低く告げた。
「星喰らいの王は“誓い”を糧とする存在。力任せでは決して斃せぬ。――必要なのは、誓いの対価だ。」
アルトとヴェイルは同時に振り返った。
互いの瞳が交差し、そこには決して譲れない覚悟が宿っている。
「俺は……契約を守らない。」
ヴェイルが吐き出す。
「この呪いを断ち切り、未来を人の手に取り戻す。それが俺の誓いだ!」
「俺は……」
アルトは息を荒げながらも、刃を胸に当てた。
「過去を盗み、未来に隠す。犠牲にされた記録も、奪われた光も、全部俺が取り戻す! それが俺の“怪盗”としての誓いだ!」
その瞬間、ルナの涙が二人の武器に呼応するように輝き、青と蒼の光が祠を満たす。
だが、光は融合せず、二つの流れとして激しく反発し合う。
クロノスの幻影が震えながら囁いた。
「二つの誓い……契約は揺らいでいる……。もし両者が調和せず、断絶すれば――宇宙の秩序そのものが……!」
星喰らいの王はそれを待っていたかのように、虚空を大きく広げる。
二人の誓いの相克を、さらに喰らい尽くそうとして。
セシリアは叫んだ。
「どっちかじゃない! “選ばれし者”は一人じゃなくてもいいはず! 二人の誓いを重ねるんだ!」
アルトとヴェイルは同時に視線を合わせる。
一瞬の沈黙の後、二人は互いの背を預けるように立った。
「未来を盗み出す」
「呪いを断ち切る」
その言葉が重なったとき、光の奔流が祠を包み、星喰らいの王が一瞬たじろいだ。
だが王は虚空を揺るがし、さらに深い咆哮を上げる。
「……まだ足りない。」
ファントムの声が低く響く。
「誓いを示すだけではなく――“代償”を払わなければならない。お前たちに、その覚悟はあるか?」
祠は崩壊の音を立て、星座はさらに消えていく。
二人は互いを見つめたまま、答えを決めなければならなかった――。