第4話「星喰らいの影」
祠を満たす光は臨界に達し、轟音と共に壁画が砕け散った。
その下から現れたのは、虚空に口を開けたような深淵の亀裂。
そこから溢れ出した影は、ただの闇ではなく、星々を模した燐光を喰らいながら形を変えていく。
「……あれは……」
セシリアが震える声を漏らす。
クロノスの幻影が揺らぎ、告げた。
「封印が解かれた。“星喰らい”――かつて契約を破ろうとした者たちの成れの果て。」
影は獣のように吠え、虚空の裂け目から群れを成して這い出してくる。
天井に刻まれた星図の光を吸い込み、周囲は急速に闇に沈んでいった。
アルトはすぐに刃を構えるが、ヴェイルは一歩も退かず、矢を番えたまま影を睨みつける。
「これが……契約の真実か。千年前、人類はこんな怪物を犠牲にして秩序を保ったのか!」
「違う!」
アルトが叫ぶ。
「犠牲を隠すために記録をねじ曲げたんだ! “未来を守る”という名目で、過去を喰わせてきただけだ!」
星喰らいの群れが祠を包囲し、次々と襲いかかる。
ファントムは冷静に短剣を抜き、無駄なく斬り払う。
だが一体を斬り捨てた瞬間、その残骸は煙のように消え、別の個体の影に吸収されてさらに巨大化していった。
「くそっ、倒すたびに肥大化するのか!」
アルトが舌打ちする。
その時、クロノスの幻影が再び声を響かせた。
「星喰らいを抑える術はただ一つ――契約の継承者が誓いを示すこと。」
ヴェイルの矢が青白く輝き、アルトの刃もまた共鳴するように震える。
セシリアは気づいた。
「……二人とも、選ばれている……!」
だが、ヴェイルは吐き捨てるように言う。
「ならば俺が誓うのは一つ。契約を破り、呪いを断ち切る!」
「俺は――」
アルトは星喰らいの咆哮に抗いながら刃を握り締める。
「過去を盗み、未来に隠す。誓いを“塗り替える”!」
二つの意思が交錯した瞬間、クロノスの幻影が裂け、虚空の中央に巨大な影が形を取った。
それは群れの頂点に立つ存在――
まるで人の姿を模した、だがその胸に黒い虚空を抱いた“王”。
「……星喰らいの王。」
ファントムの声は低く、かすかに震えていた。
「もしあれが完全に目覚めれば、この宇宙は喰われる……!」
星喰らいの王はゆっくりと口を開き、虚空の咆哮を放つ。
祠全体が崩れ、空に描かれた星座が一つずつ消えていく。
アルトとヴェイルは同時に駆け出した。
それぞれの誓いを胸に、刃と矢が闇の王へと放たれる。
そして、戦いは新たな段階へと突入した――。