第3話「矛盾する誓い」
祠を包んでいた光が激しく脈動した。
アルトとヴェイルの激突によって、古代の星図はひび割れ、刻まれていた“契約の紋”が剥き出しになっていく。
矢の一撃が石床を抉り、火花のような残光が飛び散った。
アルトはそれを身を翻してかわし、瓦礫を蹴って反撃の刃を振るう。
しかしヴェイルは一歩も退かず、黒い弓で受け止めると、すぐさま反撃の矢を繰り出した。
「速い……!」
セシリアが思わず声を上げる。
その矢は、ただ肉体を狙うのではなく、アルトの背後に広がる祠の“記録”を吸い込みながら飛ぶ。
星々の契約が刻まれた壁画が、次々と闇に呑まれて消えていく。
「お前の狙いは、記録そのものを消し去ることか。」
ファントムの声が低く響く。
ヴェイルは仮面の奥で苦笑を浮かべた。
「記録など残す意味はない。あれは呪いだ。契約を知る者がいる限り、この宇宙は束縛され続ける。」
「それでも――」
アルトは踏み込む。
「記憶を奪えば、未来を選ぶ権利さえ失われる!」
両者の刃と矢が衝突し、祠の奥に雷鳴のような轟きが響き渡った。
その瞬間、星図の中心から青白い光が噴き出し、巨大な幻影が姿を現す。
それは人の姿を模してはいたが、輪郭は揺らぎ、星々のきらめきと影が交錯する存在だった。
「我は契約の証人、“クロノス”。」
その声は祠全体に響き、時を震わせる。
「千年の時を超え、選ばれし者たちよ。汝らは問われる。契約を守るか、壊すか。」
ヴェイルが叫ぶ。
「壊す! 俺はこの呪いを打ち砕く!」
一方で、アルトはその光を見据え、静かに答える。
「守る……いや、盗む。俺たちの手に取り戻すために。」
クロノスの幻影は揺れ、星々の光が二つの道を示した。
一つは「滅びを防ぐための犠牲」。
もう一つは「秩序を越えて生まれる新たな未来」。
ファントムはわずかに目を細める。
「……ついに来たか。契約の岐路。」
祠の空気が張り詰める中、ヴェイルが最後の矢を番える。
「選べ、怪盗アルト。俺と共に呪縛を壊すか、過去の囚人として消えるか!」
アルトは深く息を吸い、唇に不敵な笑みを浮かべた。
「怪盗にとって大事なのはな――過去でも呪いでもない。“未来を盗めるかどうか”だ。」
その瞬間、二人の影が激突し、祠を包む光が爆ぜるように広がった。