第2話「祠に響く矢雨」
石の祠を覆っていた静謐は、無慈悲な閃光によって破られた。
夜空を切り裂き、無数の矢が流星のように降り注ぎ、石壁を砕きながら炸裂する。
アルトは即座にマントを翻し、セシリアの前に躍り出る。
「下がれ、ここは俺が持つ!」
衝撃波が地面を震わせ、星図の光は断片となって四方に散った。砕けた光片は宙に漂い、まるで天の川の残滓のように祠を照らし続けている。
崩れ落ちる瓦礫の向こうから、仮面の影――ヴェイルが姿を現した。
その手には黒く輝く弓が握られ、矢筒には虚空のような闇を孕む矢が詰められている。
「やはりここにあったか、“契約の記録”。」
仮面の奥から洩れる声は、執念を通り越して哀切ささえ孕んでいた。
「星々を縛る鎖を解かねば、俺たちは未来を奪えぬ……!」
ファントムが目を細める。
「未来を奪う、だと? それは均衡を破壊するということだろう。」
「違う! 均衡という名の呪縛を壊すのだ!」
ヴェイルの叫びと同時に、黒い矢が放たれる。
それはただの物理的な矢ではなく、空間そのものを裂き、祠に走る光の紋様を吸い込んで消し去った。
アルトは身を翻し、その刃のような軌跡を紙一重でかわす。
背後にあった岩壁が音もなく崩れ落ち、底の見えぬ闇が口を開けた。
「……この矢、ただの兵器じゃない。」
アルトは息を整えながら呟く。
「祠の“記憶”を喰っている……!」
セシリアが震える声で続ける。
「祠の記録が消えていく……もし全て奪われたら、“契約”そのものが失われるわ。」
記録者の幻影が、淡い光の残滓の中で揺らめいた。
「選ばれし者たちよ。急げ……均衡は崩れかけている。契約を守るか、それとも壊すか。選ぶのは、お前たちだ……」
その言葉が消えるや否や、ヴェイルは次の矢を番えた。
「俺が選ぶ! 俺の意思で、この星々の呪いを断ち切る!」
矢先が青白い残光を穿ち、アルトの胸元を狙う。
しかし、アルトの瞳は恐怖に揺らがなかった。
「呪いを断つだと? いいだろう。だが怪盗は――呪いごと未来を盗むものだ!」
マントの影が広がり、光と闇が激突する瞬間、祠全体が轟音とともに揺れた。