第三章「星々の輝き」:第1話「星の残響」
夜明け前の静寂。
アルトたちが身を寄せていた山岳の古い祠には、淡い光が差し込んでいた。
「ルナの涙」が放つ青白い輝きが、石壁に星空のような紋様を描き出す。
セシリアが呟いた。
「……これ、星座よ。夜空に浮かぶ、あの星の並び。」
壁に現れた星々は、やがて線で繋がれ、一枚の巨大な“星図”を形作った。
それはかつて失われたとされる「星々の契約」の記録──人類と異星文明の間で交わされた盟約の軌跡だった。
「契約の証……これが、宇宙の秩序を繋いでいるのか。」
アルトは拳を握りしめる。
そのとき、祠の奥から声が響いた。
「ようやく辿り着いたか、選ばれし者たちよ。」
現れたのは、半透明の光で形作られた存在。
人の姿をしていながら、目の奥には星雲のような光が瞬いていた。
「我は《契約の記録者》。星々の均衡を見届けるもの。」
その声は祠全体を震わせるように広がった。
ファントムが一歩前へ出る。
「……お前が“契約”の正体か。ならば答えろ。俺たちの前に立ちはだかる《クロノス》は、何者だ?」
記録者はゆるやかに首を振った。
「クロノスはただの破壊者ではない。契約の“片割れ”だ。
星の均衡を守るために必要な、もう一つの選択肢──」
「……つまり敵じゃないってことか?」
アルトの問いに、記録者は言葉を濁すように沈黙した。
その瞬間、祠の天井が崩れ、夜空から無数の光の矢が降り注いだ。
それは追跡者ヴェイルが放った攻撃だった。
「ようやく掴んだ……ルナの涙の秘密!」
仮面の奥から響く声は、狂気を帯びていた。
青白い星図が砕け散る。
アルトは咄嗟にセシリアを庇いながら、ファントムと視線を交わした。
「――ここからが、第三章の始まりだ。」