14.終末のカリヨン ~3.終末のカリヨン~
時の流れが歪み、終末のカリヨンは重い音を響かせながらゆっくりと動き出した。れを捻じ曲げる装置であり、その影響が終末のカリヨンを異常に鳴らしていた。エレーヌの短剣が鋭く振るわれる。その一撃は、まるでカーディナルの意志を象徴するかのように冷たく、容赦なかった。 「私たちは過去を塗り替える。この歯車がある限り、未来は我々のものよ!」 エレーヌの声は激情に満ちていた。しかし、その奥底には焦りと怒りが渦巻いている。彼女自身、過去を塗り替えるという使命に疑念を抱いたことはなかったことだった。その思いを打ち消すように、彼女は短剣を強く握り締めた。 カルマの歯車はそれだけの道具ではない。エレーヌの動きは次第に荒くなり、その鋭い刃の進路には迷いが生じていた。 それ自体を崩さないアルトの瞳は冷静だった。カーディナルのために、この歯車に未来を諦めることを——それがあなたの好みなのか?」 アルトの問いに、エレーヌの手がかかるのは一瞬だけ。その瞳にはほんの少しだけ別れが生まれた。ここに続くまで、彼女は何度も自問していた。過去を塗り替えるという使命に疑念などあるはずがない、そう自分に言い聞かせながらも、カルマの歯車が動き出すたび、見えない何かが心の奥底でさざ波のように揺れていた。アルトの言葉は、その波を確かな亀裂へと変えた。その一瞬の隙間を空けておき、アルトはカルマの歯車へと手を伸ばした。 そして、時計台の歯車のわずかな隙間に小さな爆薬を仕掛けた。 カルマの歯車は高い音を立てながら回転を止め、終末のカリヨンは悲鳴のような鐘の音を最後に、沈黙した。その瞬間、時計台を包んでいた異様な空気が消え、空間を歪ませていた微かな霧も跡形時の流れは再び静かに収束し、過去と未来の境界線がはっきりとした線を描いた。 カルマの歯車は時間を操作する装置であり、その影響で鳴っていた終末のカリヨンも、歯車の停止とともに沈黙した。外から見れば、時計台には爆発の痕跡はほとんど残っていなかった。内部で歯車が破壊されたもの、その影響は外壁には及ばず、遠目には何事もなかったかのように静まりかえっていた。エレーヌは膝をつき、呆然とその光景を見つめていた。目の前で止まった歯車——それは、過去を塗り替えるというカーディナルの野望が潰れた証でもあった。 「これで、あなたの考えは潰えた」 アルトは静かに時計台を後にする。 その背中を見つめるエレーヌの瞳には、悔しさと……そして、これまでにない深い迷いが滲んでいる。 使命を全うすることが全てだった彼女の心に、新たな問いが生まれていた。前日、街は不思議静けさに包まれていた。 かつて時計台が響かせていた音は、今はもうどこにもない。 しかし、それを知る者はほとんどいない。 ただ、街の片隅では、古い伝説がささやかれるようになった。新聞には時計台の小さな事故とだけ聞こえられ、カルマの歯車について感動されたことはなかった。 しかし、その裏では、カーディナルが新たに計画を立てているという噂も流れていた。 アルトは、街を見下ろす高台で、遠くの空を見つめていた。 終末のカリヨンが沈黙しても、戦いは終わらない。 それを彼は誰よりも冷静だった。