第二部 第83話 青き光の誓い
守護者の咆哮とともに、影の腕が無数に広間を覆い尽くした。
それは過去の怨念、滅びた文明の残滓、そして契約を裏切った者たちの記憶そのもの。
押し潰されれば、ただ肉体が滅ぶのではなく「存在そのもの」が虚空へ還されてしまう。
アルトは息を呑んだが、その目は怯えていなかった。
「幻でも、記憶でも……盗まれる側より、盗む側が勝つに決まってる」
ナイフを閃かせ、迫り来る腕の一本を切り裂く。
だが切断面はすぐに記憶の断片を集めて再生する。
「数で勝負か。厄介だな」
ファントムが低く呟き、マントを大きく広げた。
その動きに合わせ、影の一部が風に払われるように霧散する。
「アルト、結晶を――!」
「分かってる!」
ルナの涙を掲げると、青き光が広間を満たした。
それは守護者の腕を焼き払い、空間の歪みさえ押し戻すほどの力だった。
守護者の声が震える。
「その光……選ばれし者か。だが、まだ不完全……!」
アルトは息を切らしながら叫ぶ。
「不完全でも構わない。俺には仲間がいる。
過去を盗んで未来へ繋げる怪盗の誓い、その証にこの光を使う!」
ファントムがアルトの背を守り、二人の意志が結晶に重なった瞬間――
ルナの涙は青白い輝きを爆発させ、巨大な光の翼となって広間を覆った。
「……っ、まさか……これが契約の真意……」
守護者の声が揺らぎ、影の身体に亀裂が走る。
「俺たちは記録や契約に縛られるために生きてるんじゃない!」
アルトが最後の一撃を放つ。
ルナの涙の光が槍のように守護者を貫き、影は断末魔のような叫びを残して消えていった。
静寂が訪れる。
青白い光が広間を包み、亀裂も収まり、空間の歪みが消えていく。
アルトは膝をつき、結晶を見つめた。
そこにはまだ微かな鼓動が宿っている。
「……試練は終わった。だが、これで全部じゃない。結晶の奥には、まだ“記録”が眠ってる」
ファントムは頷き、重く言葉を落とす。
「そして、その記録を求めて動いている“本当の黒幕”も……な」
二人の視線が自然と闇の奥へ向いた。
まだ見ぬ敵の気配が、じわりと迫っているのを感じながら――。