第二部 第82話 虚空の守護者
轟音と共に、広間の奥の壁がひび割れ、亀裂の間から漆黒の光が溢れ出した。
そこから現れたのは、人とも獣ともつかぬ異形。
だが確かに“意志”を持ち、アルトとファントムを見下ろしている。
身体は無数の記憶の断片で構成され、過去の人々の声が混じり合って響く。
「……盗人たちよ。お前たちの選択を、我らは認めぬ」
アルトは眉をひそめ、ナイフを指先で弄びながら笑った。
「おいおい、また随分と仰々しいご登場だな。で、あんたは何者だ?」
「我らは〈虚空の守護者〉。ルナの涙に刻まれた契約を監視し、愚かな者を裁く番人……」
その声は幾百もの人々の怨嗟を重ねたように重く、広間を震わせる。
ファントムは低く息を吐き、マントを広げた。
「なるほど。選ばれたからといって安堵するのは早すぎたようだな。
試練はまだ続く、というわけか」
守護者の瞳が赤黒く光り、周囲の空間が歪み始めた。
壁に刻まれた契約文字がねじ曲がり、広間全体がまるで虚無の渦に飲み込まれていく。
アルトは一歩踏み出し、掌のルナの涙を握った。
すると、青白い光が彼の周囲を守るように展開する。
「なるほど……これは力試しか。
なら、怪盗らしく、正面から盗んでやるさ――お前の誇りごと!」
守護者が咆哮を上げ、無数の影の腕を伸ばす。
アルトとファントムは互いに目を合わせ、同時に駆け出した。
ナイフが閃き、マントが宙を切る。
青と黒、光と闇が交錯し、広間はまるで時空そのものが戦場と化したかのように激しく揺らいだ。
戦いの中で、ルナの涙は脈打つように輝きを増していく。
まるで結晶そのものがアルトたちの意志を試し、応えようとしているかのように――。