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第二部 第79話 影を喰らう怪盗

影のアルトと影のファントム。

二人の前に立ちはだかったのは、まさに「もう一人の自分」だった。

同じ身のこなし、同じ技、同じ思考までもが鏡写しのように動く。


アルトがナイフを閃かせれば、影のアルトも寸分違わず同じ軌跡で刃を走らせる。

ファントムがマントを翻せば、影のファントムもまた黒い布を広げ、空間を覆う。

刃と刃が、技と技が、己の影とぶつかり合う。


「チッ……まるで未来の盗みを全部読まれてるみたいだな」

アルトは額に汗を浮かべながら笑った。

「お前、俺より俺らしいじゃねぇか」


その時、ファントムが低く呟いた。

「影は“選ばなかった未来”の集合体……つまり、我々の後悔を食らって肥え太っている」


アルトは目を細めた。

「なら……盗めばいいんだな」


彼は大きく踏み込み、影のアルトと刃を交差させる。

互いの体が一瞬だけ重なり――

アルトの胸に、激しい感情の奔流が突き刺さった。


恋を告げられなかったあの日。

師匠を追いかけることを諦めかけた夜。

仲間を守れなかった瞬間。

――全て、自分が見ないようにしていた“もしも”の記憶だった。


「ぐっ……」

アルトは膝をつきかけたが、その目は鋭さを失わなかった。

「悪いな、“俺”。……そんな未来、俺が盗んで抱えてやる」


ナイフが閃く。

次の瞬間、影のアルトは霧散し、残滓がアルトの体へと吸い込まれていった。

影を喰らった怪盗の瞳に、新たな輝きが宿る。


一方、ファントムもまた、自分の影と対峙していた。

影のファントムは冷笑を浮かべ、囁く。

「お前は弟子を捨てる運命だ。己を守るために……必ず」


刃が交差するたび、ファントムの心に過去の光景が流れ込む。

裏切られた仲間。

切り捨ててきた未来。

何度も繰り返してきた孤独の影。


しかし――ファントムは動じなかった。

「孤独など恐れぬ。だが……あの弟子だけは切り捨てぬ」


その一言と共に、彼は影を深く切り裂き、闇を飲み干すように吸収した。


巨大な影が二人に崩れ落ちる。

亀裂は揺れ、世界の空間が軋む。


アルトは笑いながら肩で息をついた。

「結局、最後に盗むのは――自分自身の影か」


ファントムは静かに頷いた。

「影を制する者こそ、本物の怪盗……だろう」


二人が立つ地面は崩壊を始め、記憶の迷宮そのものが瓦解していく。

彼らはすぐさま身を翻し、闇の裂け目から現実へと跳躍した。


鐘の音が遠くで鳴り響く。

まるで、次の幕開けを告げるかのように――。

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