第二部 第73話 影の奥に潜む真実
アルトとファントムは、廃工場の薄暗い通路を進んでいた。
影は今や周囲の壁や床に溶け込み、まるで生き物のように二人を追い続ける。
「普通の盗賊や情報屋じゃ、こんな現象は扱えないわ」ファントムの声は冷静だが、その瞳には警戒が光っていた。
「だが……俺たちは違う。絶対に、この結晶を守る」アルトは手にしたルナの涙を握りしめた。
通路の奥、古びた扉の向こうに青白い光が漏れている。
「ここが、影の源……か」ファントムが呟くと同時に、影が一瞬、光に吸い寄せられるように集まった。
その中から、かすかな人影が現れる。
「……ようこそ、選ばれし者たち」低く響く声。
影の操作者だ。その姿は人間に近いが、全身が黒い霧に包まれており、顔は判別できない。
「あなたは……誰だ?」アルトが問いかける。
「私は……ルナの涙の守護者。古の契約に従い、この力を試す者を選ぶ」影の声は、結晶の中から直接響いてくるかのようだった。
ファントムはアルトの腕を掴み、低く囁く。
「慎重に。これはただの試練じゃない。結晶の力を理解するには、この者との接触が必要よ」
アルトは頷き、ゆっくりと一歩前に出る。
「俺は……ルナの涙を手に入れる。目的は守るためだ」
影の操作者はゆっくりと手を差し伸べ、影の塊がその手から伸びる。
「ならば、力を試す。真実を受け入れる覚悟はあるか?」
青い光が二人を包み込み、影が渦を巻き始める。
アルトとファントムの瞳には、それぞれの決意と恐怖が映る。
この試練を乗り越えられる者だけが、ルナの涙の力に触れることができる――。