第二部 第71話 影との対峙
青い光に包まれた部屋の中で、影は形を変え、アルトの周囲を取り囲んだ。
その黒い影は、単なる人間の形ではなく、意識を持つかのように蠢き、結晶の力を感じ取るように動く。
アルトは息を整え、結晶を握り直す。
「……負けるわけにはいかない。」
ファントムは一歩前に出て、冷静に声をかける。
「アルト、力に身を任せるだけじゃ駄目。意志を持たせて形にして。」
アルトは深呼吸をし、心を一点に集中させた。
指先から青い光が溢れ、部屋の中の影に触れると、影はギリギリと音を立てて揺れる。
「これが……俺の力か。」
影は光を避けるように動き、部屋の奥へ逃げようとする。しかし、アルトの意志が光に乗り、影の動きを封じた。
「う……これは……!」アルトは驚きと興奮を隠せない。
ファントムは冷静に観察し、言った。
「あなたはまだ、この力のほんの一部しか引き出していない。でも、その一部でさえ十分よ。」
影は形を変え、今度は複数の分身を作り出す。
「増えた……!? これも力の影響か?」アルトは焦る。
ファントムは短くうなずく。
「力には意思が必要。あなたが混乱すれば、影も増える。逆に、冷静に制御すれば……」
アルトは深く息を吸い込み、心の中で影一つひとつに名前を付けるように意識を集中した。
すると、不思議なことに、分身は少しずつ揺らぎ、やがてひとつに戻り、青い光の中で消えていく。
「これが……制御か……!」
アルトの瞳に、初めて自信が宿る。
影を消し去った瞬間、部屋の空気は静まり返る。
だが、ファントムの目は鋭く、遠くを見つめていた。
「これで終わりじゃない……あの影は、まだ完全じゃない。何者かが私たちを試している。」
アルトは結晶を握り直し、深く頷いた。
「わかってる。次が来るなら、俺たちは絶対に負けない。」
青い光の残像が部屋に揺れ、二人を包む。
次の試練は、すぐそこまで迫っていた――。