第二部 第70話 力の試練
アルトは手のひらを見つめる。結晶を握ったまま、体の奥に熱い感覚が広がる。
「……力が、俺の中で目覚めている。」
ファントムは冷静に観察する。
「この力、まだ制御できていないわね。無理に動かせば、あなた自身を傷つける可能性がある。」
その目は鋭く、しかしどこか優しい。彼女はアルトの肩に軽く手を置くと、静かに付け加えた。
「まずは、力を知ることから始めましょう。」
アルトは頷き、結晶を意識する。
心を研ぎ澄ませ、思考を一点に集中させる。すると、微かな光の糸が彼の周囲に広がり、空気を震わせる。
指先から放たれた光は壁に触れると、壁の表面を通り抜け、部屋の外の闇に向かって伸びていった。
「……うわ、感覚が……全身が覚醒している。」
アルトの瞳に、驚きと興奮が入り混じる。
だがその瞬間、部屋の外から異様な気配が忍び寄る。
暗がりから、見知らぬ影がゆっくりと現れた。
それは《ルナの涙》の力を狙う者――契約の秘密を奪おうとする存在の気配だった。
「来たわ……。」ファントムは刃を構える。
「アルト、あなたの力を初めて実戦で使う時よ。」
アルトは結晶を握り締める。
「……よし、やるしかない。」
部屋の中に緊張が走る。
青い光が再び輝き、二人を包み込む。
光の中でアルトは自らの意志と力を融合させ、初めて現実世界で《ルナの涙》の力を使う瞬間を迎えた。
――そして、光の波動が闇を裂き、影が揺らぐ。
二人の戦いは、まだ始まったばかりだった。