第二部 第69話 契約の真実
扉の向こうから差し込む光は、ただの光ではなかった。
青白く煌めくその光は、《ルナの涙》の本質――太古の記録を映し出していた。
アルトは息を呑む。
結晶の中に、遠い時代の映像が浮かんでいる。
異星の存在が、まだ人類が文明を持つ前の地球に降り立ち、何かを交わす場面。
契約の証として手渡されたのが、《ルナの涙》だった。
「つまり……このダイヤモンドは、ただの宝石じゃない。力の媒介であり、契約の記録そのものか。」
ファントムが静かに解析する。紫の瞳が光を反射して鋭く輝く。
映像は次々と変わり、太古の戦争、文明の崩壊、そして異星人と人類の交渉の瞬間を見せた。
人類がまだ未熟であった時、異星は未来への均衡を守るため、特定の者に力を与えた。
その力の証として残されたのが、《ルナの涙》だったのだ。
「……選ばれた者だけが、その力を使える……」
アルトは思わず手を結晶にかざす。
体に微かな共鳴が走り、過去の悲しみや後悔が一瞬で心に流れ込む。
「……俺か。」
小さく呟いたその声は、決意と覚悟を孕んでいた。
ファントムは距離を保ちながらも、静かに告げる。
「アルト……あなたが選ばれし者なら、力をどう使うかはあなた次第。だが、覚えておいて。力には必ず代償がある。」
アルトは頷き、結晶を胸に押し当てた。
「代償だろうと、痛みだろうと、全部受け入れる。過去も未来も――俺の手で守る。」
その瞬間、結晶が青い光を放ち、二人の視界はまるで時空を超えた異世界に変わった。
目の前には、太古の契約を交わした存在たちの姿が、静かに佇んでいる。
彼らの眼差しは、慈愛とも試練ともつかぬ光を帯び、アルトを見据えていた。
「……これが、ルナの涙の真実。俺たちは、ただの盗賊じゃなく……契約を継ぐ者になるってことか。」
ファントムは静かに微笑む。
「まだ始まったばかりよ、アルト。ここから先は、あなた次第……そして、私たち次第。」
二人は光の中で立ちすくむ。
過去と未来が交差するその瞬間、静かに、しかし確かに――新たな運命の扉が開かれた。